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結果的に嘘は患者と周囲にとってつらいこと…がんサバイバー笠井アナが語る告知と闘病

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

「人生の長さを決めるのは、患者自身」…重い言葉だが大切なこと

――なるほど。

 今、早期のがんは治る病。僕はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫のステージ4だったので4か月半と長期入院でしたが、むしろ長期入院する人の方が少ない時代だといえます。胃がんや肺がん、乳がんも含めて五大がんの早期発見で手術した人はだいたい1週間から10日で退院していく。定期的に検査を受け、早期発見できれば、内視鏡を使った最小限の手術で腫瘍が取れる。技術が進んでいるので、本当に早く退院できるわけです。

 告知による受け止め方は個人によって、世代によってまったく違うので、僕の知り合いの名医は「この患者にはどのテンションで告知するのがいいか常に考えている」と言っていました。ビジネスライクに告知することで「本当に軽い」と安心する人と、「私の命を軽く考えているのか!」と怒る人がいると。

 そういう意味でもエデ医師が真剣だけどあっさり「あなたは治りません」と言うのはすごいと思います。嘘は結果的に、患者にとっても、患者の周りの人々にとってもつらいことなので。

エデ医師を演じたガブリエル・サラは米ニューヨークのマウント・サイナイ・ウエスト病院医療部に勤務する上級指導医(c)Photo 2021:Laurent CHAMPOUSSIN - LES FILMS DU KIOSQUE
エデ医師を演じたガブリエル・サラは米ニューヨークのマウント・サイナイ・ウエスト病院医療部に勤務する上級指導医(c)Photo 2021:Laurent CHAMPOUSSIN – LES FILMS DU KIOSQUE

 18年前、妻の母ががんになった時、「闘う気持ちを失うから」と先生と相談して告知をしませんでした。でも自宅療養になった時、義母は良くなったと思ってすごく喜んだのに、具合は悪くなる一方で精神的に非常に落ち込んで……家の中は大変な状況になりました。

 最終的にいい形で義母を看取ることはできましたが、僕はあの時、本当のことを言った方が良かったんじゃないかと思っています。でも妻は今でも「話さなくて良かったのでは」と言う。家族だって意見が分かれるところですよね。

 だから“リビング・ウィル”という、終末期を迎えた時にどんな医療を選択するかの意志表示をしておくのは大事だなと思いました。この映画の主人公は「延命措置はしたくない」「挿管もしたくない」と明確に書いていた。そういう意思をちゃんと明確にしておくのも大事だなと思いました。

 一日でも長く生きていたい人はそう言えばいい。最期まで自分らしく死にたい/生きたいじゃないですか。早めに抗がん剤をやめるのもその人の生き方だし、抗がん剤をやめることは決して諦めではないと思います。エデ医師が言う「人生の長さを決めるのは、患者自身」はとても重い言葉ですが、大切なことだと思います。