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結果的に嘘は患者と周囲にとってつらいこと…がんサバイバー笠井アナが語る告知と闘病

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

病名を突き止めるまでに4か月…セカンドオピニオンを受けた理由は

――エデ医師の、患者への寄り添い方には個性的な部分もあります。例えば、クラゲが好きだという患者に対しては、クラゲのネクタイをして診察にあたるなど。演じているサラ医師が本当にやっていることだと伺いました。エデ医師が笠井さんの主治医だったら、どうでしょうね?

 膀胱の調子が悪くなったのが前兆で、1年前に膀胱がんの手術を受けていた小倉(智昭)さんにすぐ相談しました。「検査を受けた方がいい」と言われ、2つの泌尿器科を受診したものの、「がんではなく前立腺肥大」だと言われた。まったく良くならず、がん専門の病院に行ってやっと「がんだと思う」という診断に。でもどこのがんか分からず、また2か月。病名を突き止めるまでには4か月かかりました。

 そこで書面によって告知され(笑)、初めて妻に「ごめん、がんになった」と伝えました。3人目の医師を訪ねた時に「がんじゃないかもしれないけれど、数値から見て大病であるのは間違いない。入院してがんならがんの治療、そうでないなら別な治療をしましょう」と言われました。でも僕はフリーになってわずか2か月。サラリーマンの時は入院しても傷病手当や休業補償があるのでいいですが、辞めちゃったので0円です。

 そういう中で、妻が言ったのは、「セカンドオピニオンを受けて」。僕は体の不具合が出て、あちこち痛くなった理由ががんだと分かり、さあ、これでようやく入院できると思っていたのに。

妻の茅原ますみさんと全国の講演会へ【写真提供:笠井信輔】
妻の茅原ますみさんと全国の講演会へ【写真提供:笠井信輔】

 悪性リンパ腫は希少がんで、どの病院でも診てはくれるけど症例数が豊かなわけではない。症例数が多い病院は3つ。その中でも、寄り添う先生、寄り添わないけど医術に長けている先生がいることを調べてもらい、難しい病気であることは3人目の先生から聞いていたので、「寄り添わなくていいので、医術の優れた先生」にセカンドオピニオンをお願いしました。

 紹介時に言われたようにとてもストレートな先生で、PET検査の結果を見た時なんか、「あー、全身に散らばっていますね」と。「特別な治療になるので、4か月から半年くらい、悪いと1年くらいの入院になる」と聞かされ、「働きながら入院できませんか?」と食い下がると「絶対無理」とバッサリ。そんな感じで生存率などもストレートに教えてくれました。

 ただ、「ステージ4は、手遅れという診断ではありません。今、抗がん剤の開発は進んでおり、このがんに対する薬は必ずあるので、薬が合えばきっと乗り越えられる。私は一生懸命に薬を探すので、笠井さんも頑張ってください」とさらりと言われたんです。「何とかなるから頑張りましょう」ではなく、医術の知識によって寄り添ってくれた。この先生は信じられると思ったのはその時です。

 はっきり言わなければいけないのはこちらも同じです。例えば、主治医が来て「どうですか」と言う。それに対して「おかげさまで」と答えるのはダメです。我々の世代以降は我慢するのが美徳、先生に迷惑かけちゃいけないと教えられている。それは大きな間違いで、わがままでも何でもない。現代は痛みの緩和を進めながら治療するのが一般的。次の治療に影響するので、正確に言わないと意味がないんです。

 僕もまず緩和治療から始まりました。がんの診断が出るまでロキソニンを飲みながら働いていたので、まずこの痛みを何とかしたく、薬剤を細かく調整し、バランスを取りながら痛みを緩和してもらいました。

 食事も同じ。僕は白米が食べられなくて、どんなにふりかけをかけてもダメ。栄養士さんと相談して、毎日2食をパンと麺に変えてもらいました。今は患者のQOLを上げることがとても大事。日本でもその考えが広まりつつあります。抗がん剤治療中は、禁止されている食事以外は、好きなものを好きなだけ食べればいいんです。

 私は、病院食を食べずにインスタント焼きそばを食べることがよくありました。もし看護師さんが「他のものは食べずに、病院食を食べてください」なんて患者を責めるようなら古いですよ。

<後編に続く>

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(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。