仕事・人生
男性優位だった飲食業界に風穴 ヨーロッパ500都市で食文化を実体験した女性
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女性に発言権がなかったかつての飲食業界「本場の味をしっかり体験しよう」
高校から製菓専門学校へ進み、その後は東京や埼玉のホテルとレストランでパン職人や菓子職人として10年ほど勤務。しかし、1990年代当時の厨房は「料理人が100人いても女性は1、2人という時代」。圧倒的に男性優位の世界だったそう。
「女性の話は誰も聞いてくれないので、休みの日も講習会や勉強会に参加したり、パンやお菓子の食べ歩きをしたり。とにかく知識を身につけようと努力をしても、何も聞いてもらえませんでした。でも、よくよく男性陣を見ると、実際にフランスやイタリアなど現地でしっかり修行した経験のある人は多くなかったんですね。だったら、私は自分の目で全部見て、本場の味をしっかり体験してこようと思い、1人でヨーロッパに出かけました」
飛行機のオープンチケットと200万円の貯金を持って渡ったヨーロッパ。前年にドイツとフランスで3か月を過ごす“予行練習”を行ったものの、言葉がまったく通じないため、とても不安だったそうです。それでも実体験を得る旅に踏み切らせたのは、料理人として厨房で“市民権”を得たいという強い思いでした。
バックパッカーさながら、ユースホステルで居合わせた各国の旅行者から「あの国は危ない」「ここは食事がおいしかった」など耳よりな情報をもらいつつ、約1年をかけて20か国500都市を訪問。治安の悪い町もあり、怖くて涙することもありましたが、覚悟を決めて踏み出した冒険です。「日本に帰ったら良い経験だったと思えるし、笑い話にもなるはず」と自分を奮い立たせ、次の町、次の村と目指すうち、次第に心がほぐれてきました。
地元の人々と身振り手振りのコミュニケーションを重ねながら、地域のお祭りに参加したり、工事現場や工場などで働く人たちの後について大衆食堂に出かけたり。「隣のおじさんたちが食べるものを指差して『あれください』ってオーダーしてました」と語りながら、懐かしそうに笑います。
ヨーロッパ各地を回る中でも、最も印象に残っているのがハンガリー。東欧の名残りがあるブダペストでは、拳銃の発砲音を聞くことも度々でしたが、食事はおいしかったのだそう。
「とにかく食事がおいしいんです! 物価は安いし、寒い国なので素材の味を生かした煮込み料理が本当においしい。いろいろな点で本当に衝撃を受けた国でした」