仕事・人生
男性優位だった飲食業界に風穴 ヨーロッパ500都市で食文化を実体験した女性
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宝物となったヨーロッパ旅行の経験「実力が評価されびっくり」
ヨーロッパではおなじみの光景があります。それは「どの国のどんな小さい町にもファーマーズマーケットがある」こと。店先に並ぶ野菜や果物は形や大きさこそ不揃いですが、新鮮採れたて。日本ではB級品と分類されそうな品物も、地元の人々が気にせず買っていく姿にとても驚いたそうです。
人間にとって食事は生活の一部。だからこそ、ヨーロッパの人々の日常にある“食”の風景を体験できたことは、榎本さんにとって大きな宝物となりました。
帰国後は再び料理の世界に戻りましたが、今度は料理人ではなく、サービススタッフの道を歩むことに。折しも、ヨーロッパの珍しい野菜が日本で紹介され始めた頃でした。
「ファーマーズマーケットで買って、自分で料理し味わっていたので、現地ではどんな時にどんな食べ方をしているのか知っている。でも自分で料理をしているとお客様に伝えづらいので、サービススタッフとしてしっかり情報を伝え、野菜の消費を提案したいと思ったんです」
那須高原(栃木県)のリゾートホテルで働いていた時のこと。榎本さんは派遣スタッフとして食器を下げたり飲み物を運んだりしながら、あることをしていました。
「お皿にのっている野菜や料理のプチ情報をお客様にお伝えしていたら、上司が『どうしてそんなに知識があるんだ!』と驚いてしまって(笑)」
ヨーロッパで得た知識と経験が高く評価され、数か月後にはサービススタッフのエースとして料理を運ぶ役目を任されるまでに。
「お客様に何を質問されても、君なら答えられるからテーブルにつきなさい、と。国内外のVIPがいらっしゃるホテルで、実力が評価されたことにびっくりしました。周囲の見る目も変わって、『この食材はこういう使い方もありますよ』と厨房に提案すると、シェフたちが耳を傾けてくれるようになったんです。ヨーロッパに行った甲斐があったと思いました」
もちろん、ここで満足する榎本さんではありません。野菜ソムリエという資格ができたことを知ると、那須高原から東京まで通い講義を受けて取得。そして、野菜ソムリエとして各所で講師の経験を重ねるうちに「もう少し深く野菜を知りたい。もしかしたら農業を勉強した方がいいのかも」と感じるようになったそう。
父親の体調が優れなかったこともあり、実家に戻った榎本さんは講師と並行して農業を手伝い始めました。着実にキャリアを積み上げた結果、原点ともいえる農業にたどり着いたことに、不思議な縁を感じずにはいられません。
埼玉県生まれ。農家に生まれ育ち、高校では食品科で発酵について研究。製菓専門学校卒業後はホテルやレストランでパン・菓子職人として約10年勤務。料理人として経験を積むためにヨーロッパを旅し、約1年で20か国500都市を訪問。現地の食文化に触れる。帰国後はリゾートホテルのサービススタッフとして勤務。野菜ソムリエの資格取得後、2013年に弟とともに家業を継ぎ、現在は「さいたま榎本農園」としてミニトマトを中心に100種類以上の野菜を栽培する。農林水産省「農業女子プロジェクト」のメンバーとしても活躍中。
(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)