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仕事・人生

余命3日から始まった壮絶な闘病 元宝塚トップスター安奈淳さんが感じた“生きる力”

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・瀬谷 宏

インタビュアー:竹山 マユミ

情緒不安定な時期を支えてくれた仲間とマージャン 真相を聞いて流した涙

数々の病気を克服し、周囲の支えの大きさを実感した安奈淳さん【写真:荒川祐史】
数々の病気を克服し、周囲の支えの大きさを実感した安奈淳さん【写真:荒川祐史】

竹山:病気の度に克服なさって、また舞台に復帰するという精神力の源は何なのでしょうか。

安奈:先にお話しした通り、私には努力しようとか、何とか頑張ろうというような気持ちがないんですよ。私の場合、歌うと楽しいし幸せ。これが好きなんだなって。好きなことをやっているという、自分の幸福感みたいものがどこかにあるのでしょう。だから、「誰かのために頑張らなくちゃ」ではなく、根本を突き詰めれば「自分が好きで、これをやりたいから」ということなんでしょうね。

 闘病中にまったく声が出なくなった時もありました。声が出なくなったら歌うこともできない。もう引退かと思ったけれど、他に何もできないから、どうやって生きていけばいいんだろう……そんな風に思うことがありました。でも1年半くらい闘病して、それでもやることがないからもうちょっと頑張ってみようと、ボイストレーニングに通って発声練習などを始めました。

竹山:もう声が出ないかもしれない、体調が戻らないかもしれないと思った時は、どうやって乗り越えられたのですか。

安奈:体調が戻らないかもしれないと思ったことはないんですよ。いつか何とかなる。だから、悪くなった時も「いつか治る」と思ってしまうわけで。その辺りが能天気なんです。これで死ぬとは思わない。いつかは死ぬ時が来ますけど、あまり悲観はしていません。

竹山:そういう考え方をされると、周りで支えていらっしゃる方々にとっても救いですね。

安奈:退院してからも寝たきり。それでも時々病院に行かなきゃいけない。そこで車に乗せてくれる人や、食事を作ってくれる人がいるわけですよ。それで生き延びていました。

 でも薬の副作用で自殺願望がひどくなりましたね。3回ほど未遂を起こしています。思考回路がズタズタになり、頭の中に文字とか数字とかが洗濯機の中にいるみたいに回っていて10日間くらい眠れない……という状態が続きました。

 何しろ物を考えられなくなって、「1+1」すら分からない。幻聴や幻覚がひどくなってしまい、それで「死ななくちゃいけない」という強迫観念みたいなものもありました。何回か入退院を繰り返して、そうしたことも乗り越えてきました。

竹山:自分の意識が戻ってくれば、当然そんなことは考えないわけですよね。意識がちょっと離れていると、何に支配されているのかもう分からないくらいなのでしょう。

安奈:私はすごくマージャンが好きなんです。友達が道具を持ってきて、気を紛らわすためにやっても、牌を並べた後に「これ、どうしたらいいの」という状態。でも、分からなくなっていることをみんなに悟られたくないから、そのままやる。

 マージャンは4人でやるので、他の3人は実のところ、私がそうなっていることを知っていたんです。知っていながらやってくれた。「知ってたよ」と後で聞いた時、もうボロボロ泣いてしまって。そうやって支えてくれた人がいたから、今の私がある。人間、一人じゃ生きられないなとつくづく思いますね。

竹山:コロナ禍になって、先行きに不安を感じる方もたくさんいらっしゃったと思います。そんな方々に、こんな風に考えたらやっていけるんじゃないかというものがあれば、ぜひ教えていただけますか。

安奈:明けない夜はないんですよ。いつかは夜が明けて朝が来る、と私は思います。私が宝塚を辞める時にやった役は「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラでした。その役は最後に「明日になれば」という曲を歌うんです。明日になれば日は昇り、月は沈む。いつか絶対に良い方になっていく。人生って丸い輪っかになっていて、最後はちゃんと辻褄が合うようにできているのですね。

 人間っていろいろ悪い方に考えたりして、そちらに引っ張られることが多いのですが、なるべくそうではない明るい方に自分を持っていく、持っていこうとする努力は絶対に必要です。負の方に行っちゃいそうになっても、そこから自分を引き離し、「自分は良い方に行くんだ」という強い気持ちをいつも持っていないといけないと思います。コロナだっていつかは明ける。だから頑張らなくちゃ、と思いますけどね。

竹山:いつも向上していくための何かを持ち続けることも、若々しくて生き生きとするコツですね。

安奈:せっかく生きているからね。私なんか何回か死にかけて、その度に生かされているんだから、もったいないなと思います。今の新しい音楽にはついていけないけど、自分をもっと向上させたいという気持ちをいつもどこかに持っていますから。生きている限り、1ミリでも前に進みたいですね。

竹山:これからの夢や目標があれば、ぜひお聞かせください。

安奈:夢も目標もないんですけども(笑)。できれば元気で長く歌っていたいなとは思っています。もうみんなに「やめた方がいいんじゃない」と陰で言われないように。

 みんななかなか言えないじゃないですか、そういう話って。だから私は周りに「そうなったら、はっきり言ってちょうだい」と言っているんです。そう言われるようになるまでには、フェードアウトしたいと思っています。

竹山:まだまだこれからも、素敵な歌声を聞かせていただきたいと思います。今回はありがとうございました。

<終わり>

◇安奈淳(あんな・じゅん)
大阪府出身。7月29日生まれ。愛称は「オトミ」「ミキ」。1965年に51期生として宝塚歌劇団に入団し、花組公演「われら花を愛す/エスカイヤ・ガールス」で初舞台。雪組に配属され、1966年に組替えで星組へ。1970年から鳳蘭とともに星組のダブルトップスターとして活躍し、1974年に組替えで花組でもトップスターに。1975年には「ベルサイユのばら」のオスカル役で人気を博す。1978年に「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラ役で退団。退団後は「屋根の上のバイオリン弾き」「サウンド・オブ・ミュージック」「レ・ミゼラブル」などの舞台を中心に活躍し、2012年に第33回松尾芸能賞・優秀賞を受賞。2014年には「宝塚歌劇の殿堂」の最初の100人の1人として殿堂入りした。現在は歌手としてリサイタルやコンサートを中心に活動し、2019年に芸能生活55周年記念コンサート、2021年にオリジナルリサイタル「Bouquet d’espoir」を開催した他、同年に初の自身のビジュアル本「70過ぎたら生き方もファッションもシンプルなほど輝けると知った」(主婦の友社刊)を上梓。2022年は「Anniversary Concert 75th」(銀座ヤマハホール)、「Anniversary Lunch Show」(宝塚ホテル)を開催。

◇出演情報
Arrow Jazz Orchestra ジャズ&宝塚ボーカルフェスティバル Vol.2 With Blues
【日時】2023年1月22日(日)午後3時(終演同5時予定)
【会場】兵庫県立芸術文化センター 大ホール(兵庫県西宮市高松町2-22)
【金額】S席8000円、A席7000円、B席5000円(全席指定)※未就学生をお連れの方はS席2階のみ
【出演】安奈淳・愛音羽麗・悠末ひろ、ゲスト:上田正樹
【演奏】アロージャズオーケストラ
【お問い合わせ】グリークス(06-6966-6555)


三越創業350年記念コンサート 安奈淳 Jun Anna Solo Concert ~MEMORIES~
【日時】2023年3月21日(火・祝)午後4時(開場午後3時30分)
【会場】三越劇場(東京都・日本橋三越本店本館6階)
【金額】S席1万1000円、A席9000円(全席指定)
【演奏】音楽監督・Piano/雄太、Bass/岸徹至、Drums/ミルトン冨田、Synthesizer/藤山正史、Violin/寺島貴恵
【販売】2023年1月8日午前10時開始 三越劇場(0120-03-9354)、チケットぴあ
【お問い合わせ】(株)Office Anna Jun(03-5315-0842、メール:office@anna-jun.com)

(Hint-Pot編集部・瀬谷 宏)

(インタビュアー:竹山 マユミ)

竹山 マユミ(たけやま・まゆみ)

明治大学卒業。広島テレビ放送のアナウンサーを経てフリーアナ、DJとして各テレビ局やラジオ局で番組を担当。コーピングインスティテュート コーピング認定コーチ。宝塚歌劇団は生まれる前から観劇するほどの大ファン。