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年末年始「トム・クルーズ自宅映画祭」のすすめ 2023年も世界を圧倒する60歳

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

イッちゃってるトム編:実は一番輝いているかも?

 根が真面目なトムだからこそ、振り切れた時は双極ともにものすごい。役柄のチョイスも、その役への挑み方も神がかっている。

○『マグノリア』(1999)ポール・トーマス・アンダーソン監督

 一見関連性がなさそうにみえる男女9人の、24時間のエピソードを描いた群像劇。人の無意識な連鎖が物事を動かす。米歌手エイミー・マンが「混とんとした社会から救えるもんなら私を救ってみなさいよ」と歌う「セイヴ・ミー」をベースに、P・T・A(ポール・トーマス・アンダーソン)が映画化。トムは本作でも米アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。

 トムが演じるのは、カルト的人気を誇るナンパ布教師フランク・T・J・マッキー。彼が主催するセミナーには、別な人生の扉を開きたいと願う奥手な男性が詰めかける。腰を振り、際どい性表現でセミナー参加者をたきつけるフランクは、相当にぶっ飛んでいる。インタビューに訪れた女性記者を前に白いブリーフ姿で語るが、彼のその自信の源は、実は不安の裏返しであるという事実が暴かれていく。

『ブギーナイツ』(1997)が好きで、一緒に仕事をしたい旨をP・T・Aに伝えていたトム。P・T・Aはトム主演のスタンリー・キューブリック監督『アイズ ワイド シャット』(1999)の撮影を訪れてオファーとのこと。セミナーでのフランク登場シーンには、キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』でオープニングに使われた「ツァラトゥストラはかく語りき」が流れる。最後のジェイソン・ロバーズとの対話のシーンはド迫力。

○『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008)

 落ち目のアクションスター、タグ・スピードマン(ベン・スティラー)が起死回生をかけて主演した戦争映画の撮影が、ゲリラによる本当の戦闘に巻き込まれる風刺的アクションコメディ。監督も務めるスティラーは、『プラトーン』(1986)や『ハンバーガーヒル』(1987)に出演した俳優が役作りのため激しいブートキャンプを体験した話をヒントに本作を企画した。本作の軍事アドバイザーにも『プラトーン』同様、デイル・ダイを起用している。

2008年、『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』米ロサンゼルスプレミアで【写真:Getty Images】
2008年、『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』米ロサンゼルスプレミアで【写真:Getty Images】

 トムが演じるのは、金と名声のためだけに映画を作っている太い腕が印象的なプロデューサー、レス・グロスマン。話題性のためだけに題材をベトナム戦争にし、誰がどうなろうとも映画が完成して利益が上がれば良いと考える。そんな傲慢で冷徹なプロデューサーだからこそ、真摯に役と対峙する俳優たちが際立つ。トムもまたそんな俳優の一人だ。

 グロスマンは、トムとパラマウントとの契約を一方的に切った米メディア企業バイアコム(パラマウントの親会社)会長、故サムナー・レッドストーンをあてこすったものだという見方もあったが、スティラーが否定した。鑑賞後、印象に強く残るのは、グロスマンが最後に見せる“喜びの舞”だ。スティラーは「彼があそこまでやるとは予想していなかった」と歓喜。トムも気に入っているようで、機会あるごとにそのダンスを披露している。

○『バリー・シール/アメリカをはめた男』(2017)ダグ・リーマン監督

 トムが演じるのは、パイロットとして優秀だったことが“災い”して、米大手航空会社トランス・ワールド航空からCIAに引き抜かれた実在の人物バリー・シール。実際にパイロットの免許を持っているトムは、本作でも自身で操縦桿を握った。墜落シーンも訓練の末、自分で演じている。

 バリーはCIAの引き抜きにうっかり承諾するが、非合法なCIAのミッションをコロンビアの麻薬カルテルに付け込まれ、麻薬の密輸にも協力することになる。バリーは、愛する家族の暮らしと安全のために従うしかなかったが、実はそのスリルこそ彼にとってなくてはならないものだったのではないか。そしてたぶんそれは、トム本人にもいえることなのだろう。

 ダグ・ライマン監督によると、この映画は「実話に基づいた楽しい嘘」。映画のように、バリーがFBI、DEA(米麻薬取締局)、ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)から一斉に摘発された事実はないようだ。とはいえ、5人の実在した米大統領が登場する本作には、米国史を新しい角度から見せてくれる面白さもある。十分ぶっ飛んだ映画だ。