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2022年のドラマで話題をさらった女性俳優たち 2023年の新作おすすめ作品は

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

「エルピス-希望、あるいは災い-」気概が一切ない長澤まさみ

 前述の『天然コケッコー』。その脚本を書いたのは、「エルピス-希望、あるいは災い-」(2022年10月24日~12月26日放送、FODで全話配信中)の渡辺あやだ。渡辺の書くセリフには劇的な言葉はない。普遍的な日常のような言葉が澱のように積み上がっていった時、ある力を持ち、否応なしに人の心の奥底を見せてくる。

 本当に力のある脚本家だ。長澤まさみはこの作品で、これまで以上に飛躍的な成長を遂げたと思っている。

 長澤が演じるのは、局アナの浅川恵那。報道のエースだったが、路上キスが週刊誌ネタになったことで深夜帯のバラエティに担当替えになった。精神的ダメージを抱えながら、漫然とバラエティ番組のコーナー担当をこなしていた浅川は、ある日、番組では扱いかねるテーマだと自覚しながらも冤罪事件の報道へとのめり込んでいく。

 長澤は、役を演じようという気概がある。17歳で演じた『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)では、白血病の治療中という設定のため、実際に髪を剃って演じた。その時に長澤は、「演技なんてまだまだな私にできることといったら、髪を剃ることくらいなので」と屈託なく語った。その後もそうだ。役の掴みどころは外さない。でもある種気概で演じているように感じることもあった。

 ただ「エルピス」の長澤に気概は一切ない。浅川は長澤が演じているのだが、もはや長澤の影はない。人間の業がうごめく深淵に、どろりと流れていくものを具現化したものが浅川恵那だ。緊張と弛緩、思考と反射。浅川の体は、そんなものに支配されて動いている。長澤は浅川をこんな風にとらえているように感じた。

 主題歌の「Mirage」もその感覚を際立たせる。これをバックに、浅川が無機質なキッチンで踊るエンディングが、期待をガチガチにそぎ取っていくのだ。また1話、エピソードが進んでこのエンディングが流れると、崖の上に立たされているかのような絶望感と緊張感を覚える。ゾクゾクするこの感覚を味わいたくて毎週ドラマを観ていたともいえるだろう。

『ロストケア』2023年3月24日(金)全国ロードショー(c)2023「ロストケア」製作委員会
『ロストケア』2023年3月24日(金)全国ロードショー(c)2023「ロストケア」製作委員会

 2023年3月24日(金)に全国公開予定の前田哲監督『ロストケア』は、そんな長澤まさみをさらなる高みへと連れて行った。長澤が演じるのはある連続殺人事件を担当する検事・大友秀美。捜査線上に浮かび上がった介護士である容疑者・斯波宗典(松山ケンイチ)は、素直に犯行を認めるものの、自分が行ったのは「救い」なのだと言い放ち、大友を翻弄する。

 ストレート剛速球を投げ続けることができる長澤に感服する。これらの後に出演するコメディチックな作品をどう演じるのか本当に楽しみにしていたら、こんなリリースが! どうやら松尾スズキと組んでWOWOWオリジナルコントドラマ第3弾「松尾スズキと30分強の女優」に出演するらしい。コントだ! 変化球だ!