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2022年のドラマで話題をさらった女性俳優たち 2023年の新作おすすめ作品は
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「ファーストペンギン」説得力を持って演じた奈緒
ドラマ「ファーストペンギン」(2022年10月5日~12月7日放送、Huluで全話配信中)は、脚本家がきっかけで観始めた。脚本を担当したのは森下佳子。
これまで「JIN-仁-」(2009、2010、2011・TBS)、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(2013)、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017)、「義母と娘のブルース」(2018、2020・TBS)、「天国と地獄~サイコな2人~」(2021・TBS)など数々のヒットドラマの脚本を手がけてきた。
「ファーストペンギン」は、5歳の息子を1人で育てるシングルマザーの岩崎和佳(奈緒)が、漁船団の船団長に頼まれ、浜を立て直していくサクセスストーリー。サクセスといっても一進一退。問題山積でゴールがなかなか見えてこないリアルなストーリーは、坪内知佳さんが山口県萩市大島で成功させた水産業の6次産業化事業をベースに組み立てた。
森下の脚本は、どんな奇想天外な話でも核となる物語がぶれないのはもちろん、そこにさまざまに楽しめる伏線が仕掛けられているのが特徴。それに気づいても気づかなくても楽しい。実話をそのまま描くのではなく、いかにエンターテインメントな作品としてドラマ化するかという森下の辣腕ぶりが堪能できる。
空気の良い港町に引っ越してきたのは、喘息持ちの息子のためであり、社宅のあるホテルでの仕事が見つかったから。頼れるものがない状態でこの地に来た和佳は、ひょんなことから縁もゆかりもない漁業の世界に飛び込み、漁獲量も売り上げもじり貧となった漁業を漁師たちと改革することで信頼関係を築いていく。
和佳が最初にぶつかるのは、事業スキームの構築や営業的な苦労ではない。漁業関係者の中にある昔ながらの慣習やジェンダーの壁だ。和佳はアジとサバの違いも分からない素人だが、自分でアイデアを出し、それを自分で実現させていくバイタリティがある。奈緒はそんなキャラクターを、説得力を持って演じることのできる俳優だった。
和佳の魅力は、どんなにヘタレな部分も隠さずつまびらかにするところ。そこにつけ込む者あれば、その話を聞いた上できちんと意見を返す。少々ブチギレ気味ではあるが、それは決して論破を目的にしたものではなく、その状況をどのように良い方向に導くかという議論につなげるもの。諦めることなく解決に導こうとする姿勢が気持ち良かった。
特に最終話で和佳が放った啖呵の小気味良さといったら。違和感なくあのテンションにすんなり持って行った奈緒の度量。彼女の出演作をもっと観てみたいと感じた。
これまでは『みをつくし料理帖』(2020)の主人公が心のよりどころとする幼なじみで吉原では誰をも魅了するあさひ太夫と呼ばれる野江や、『TANG タング』(2022)の中国でロボット研究を進める博士のように、少ない登場場面できっちり印象を残す役目を果たしてきた。
タナダユキ監督の映画『マイ・ブロークン・マリコ』(2022)のぶっ壊れたマリコや、ドラマ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール」(2021・日本テレビ)の主人公の姉役では、観終わった者にとっての忘れられない存在となる演技を見せた。
「ファーストペンギン」は、奈緒の地上波民放ゴールデン・プライム帯連続ドラマ、初主演作だという。主演をするとこんな作品ができるのだ。彼女が主体となる作品をもっと観てみたいと思った。
2023年の出演映画は、熊切和嘉監督、中島裕翔主演の『#マンホール』(2月10日(木)全国公開予定)。ヒロインの工藤舞を演じる。結婚式前日にマンホールに落ちて出られなくなった男に、舞がどんな形で絡んでいくのか楽しみだ。
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。