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「障害者」ではなく「挑戦者」…パラやり投げ選手が4年に1度の舞台を目指した理由

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

美馬アンナさんとパラやり投げの山崎晃裕選手【写真:荒川祐史】
美馬アンナさんとパラやり投げの山崎晃裕選手【写真:荒川祐史】

 俳優やタレントとして活動する美馬アンナさんは、2019年10月に愛息「ミニっち」を授かってから、障害について深く考えるようになりました。ミニっちは先天性形成不全のため、右手首から先がありません。戸惑いの出産から3年余りが経った今、配偶者である千葉ロッテマリーンズの美馬学投手の協力もあって、笑顔が愛らしいミニっちはまっすぐに育っています。

 障害児を育てる家庭の日常の良いことも悪いことも、包み隠さずSNSで発信しているアンナさん。障害者と健常者をつなぐ活動をしたいと、学びを深めています。そんなアンナさんが、さまざまなジャンルの方と障害について語り合う対談シリーズ。今回のお相手は、東京パラリンピックの男子やり投げで7位入賞を果たした山崎晃裕選手(※「崎」はたつざき)です。パラ選手の魅力と子どもが持つ可能性について語り合う最終回をお届けします。

 ◇ ◇ ◇

パラ選手の魅力はそれぞれが持つ“物語”にあり

美馬アンナ(以下アンナ)アルペンスキー元日本代表のママ友(須貝未里さん)や山崎選手のお話を聞くと、やはり五輪やパラリンピック(以下オリパラ)は特別な舞台だと感じます。ただ、そこに至るまでには想像を超える努力があり、いろいろな大会で結果を積み重ねている。なのに、傍から見ると結局はオリパラの結果しか注目されず、それがすべての判断・価値基準にもなっている気がして、選手は窮屈に感じないのかなと思ってしまいます。

山崎晃裕選手(以下山崎):はい、正直むっちゃ窮屈に感じる時もあります。でも、4年に1度の舞台を目指すことにそれ以上の魅力を感じるんです、自分は(笑)。

 すごい実力があっても、運のような目に見えないものを味方につけないといけないこともある。東京パラリンピックでは毎日PCR検査を受けましたが、新型コロナウイルスに感染して出場できない可能性、それだけで積み上げた4年間が否定される可能性もありました。4年に1度の舞台はそれほど大変ではかないからこそ、目指す過程が自分の生き様となる。そこに大きな魅力とやりがいを感じます。

5月のテスト大会で2位だった山崎選手は、パラリンピック陸上男子やり投げ種目で7位入賞を果たした【写真:Getty Images】
5月のテスト大会で2位だった山崎選手は、パラリンピック陸上男子やり投げ種目で7位入賞を果たした【写真:Getty Images】

アンナ:ご意見を伺って、何だかうれしくなりました! オリパラなどアスリートが目指す舞台にかける思いやモチベーションを知ると、より「見たいな」と思いますね。

山崎:確かに思いの部分は大切ですね。記録がすべての陸上では、パラ選手は五輪選手に到底敵いません。となると、世間の人々がどうしたら興味を持ってくれるかを考えた時、パラ選手は試合に至るまでの生き様や過程といった“物語”を知ってもらうことが大事だと感じます。どんな工夫をして障害を乗り越えたのか、どうやって競技と向き合ってきたのか、そこに価値があるんじゃないかと思うんです。

アンナ:私もそう思います。簡単にやっているように見えて、その裏に隠された思いや日々の努力は想像がつかないくらい大変なはず。私のように障害がある子を持つ親は、パラ選手の皆さんがどうやって立派に成長したのか、ご家族や周りで支えてくれた方々の物語も知りたいですね。

山崎:パラ選手の場合、まず日常生活ができるようになってからスポーツに挑戦し、そこから競技に対する試行錯誤を重ねるので、“物語”には1冊の本のような深みがあるんじゃないかと。その深みを伝えるにはどうしたらいいか、すごく考えています。パラスポーツの価値を高めたり、多くの人に勇気や影響を与えたりするには、そういった“物語”にフォーカスすることが大事だと思うんです。

アンナ:何事も結果だけではなく、そこに至るまでの過程や“物語”にも高い価値が認められる。そんな社会を作ることは、私たちみんなの課題でしょうね。パラ選手に限らず、障害がある人は生活する上で乗り越える壁が圧倒的に多い。だから、メンタルは相当強いし、乗り越える力は特別だと思います。

山崎:日本では未だに「障害者」という言葉を使いますが、米国では「challenged」という言葉を使うこともあるそうです。「神様が試練を与えた人たち」ということで、僕は自分が「障害者」ではなく「挑戦者」だと思うようにしています。その方がかっこいいじゃないですか。

アンナ:かっこいい! とらえ方次第ですね。