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「障害者」ではなく「挑戦者」…パラやり投げ選手が4年に1度の舞台を目指した理由

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

健常児と一緒に野球をしながら障害と向き合った子ども時代

──多様性や共生社会の理解が広まる中、障害者と健常者が互いの理解を深めるために、スポーツなど実際の交流が有効活用できそうです。

山崎:自分は他人と違う体で生まれましたが、仲間とつないでくれたのは野球でした。野球があったから仲間ができたし、野球をしながら障害と向き合い、挑戦して乗り越える過程を体験できた。スポーツの持つ力はすごいなと思います。

アンナ:体験や経験は大切ですね。先日、息子が元パラ水泳選手の一ノ瀬メイさんと初めてお会いしました。息子がメイさんの右手を見て「何で手がないの?」と聞いたら、メイさんが「何でかな。でも同じ~」と自分の手を見せてくれた時、本当にうれしそうだったんです。

美馬アンナさんの愛息ミニっちは、先天性形成不全のため右手首から先がない【写真:荒川祐史】
美馬アンナさんの愛息ミニっちは、先天性形成不全のため右手首から先がない【写真:荒川祐史】

山崎:同じ手の人に会えたことがですか?

アンナ:そうみたいです。それまで右手を積極的に動かしたり見せたりすることはなかったのに、その日から何度も「見て~」と右手を出すようになりました。

 今は3歳で、最近は「あの子には手があるけど、僕にはない」と言うようになり、周りとの違いに気づいて手がない寂しさを感じているのかと、少し心配だったんです。でも、メイさんと会ってからガラッと変わって「何でもできるよ」と言い始めたくらい(笑)。子どもへの影響力の大きさを実感しました。

山崎:僕も右手首から先がありませんが、逆立ちもできるし、靴紐も結べる。先天性の子どもは手があるかのように、すごく器用にいろいろなことができるようになると思います。生まれた時からこの手が当たり前だと思っていたので、少年野球で「すごいね」と言われても何がすごいのか分からない(笑)。左手で習字をする時も、それは左利きの人と同じ感覚なので特別ではないんですよね。

アンナ:子どもの頃に手がない理由を聞かれるのが面倒くさかったり、「何で自分には手がないんだ」と親御さんに反抗したりしませんでしたか。

山崎:う~ん、反抗することはなかったですね。する子もいるとは思います。僕も記憶にないだけで言っていたかもしれません(笑)。

アンナ:私は少し身がまえてしまいます。反抗期が来て「何で手がないんだよ」と言われたらどうしようって。

山崎:僕は高校野球の練習がきつくて「無理だよ、金属のバットを片手で振るなんて」と思ったことはありますが(笑)、親に何か言ったことはないですね。友達からいじられたことはあっても悪意を持ったものではなかったので、嫌な気持ちにはなりませんでした。

アンナ:うちは最近、特にハロウィン前後に「怖い」と言われることがありました。息子が右手を差し出すと、特に女の子は「怖い」と手を引っ込めてしまうので、逆に息子が「え?」となってしまう。親としては、その姿に結構傷付くんです。

山崎:幼少期で覚えているのは、お遊戯会で隣の子と手をつなぐ時に自分から掴めないので、相手から掴んでくれた時の安心感が大きかったことですね。自分を受け入れてくれた瞬間の安心感は、記憶として残っています。

アンナ:息子も右手を掴んでもらえると、すごくうれしそうな顔をします。「あ、心が動いたんだな」と思います。