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宝塚は「天国と地獄が両方ある場所」 元男役がOGの第二の人生の支援を始めた事情

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・瀬谷 宏

教えてくれた人:竹山 マユミ

タカラジェンヌのセカンドキャリア支援について語った生尾美作子さん【写真:徳原隆元】
タカラジェンヌのセカンドキャリア支援について語った生尾美作子さん【写真:徳原隆元】

 華やかなステージを経験したタカラジェンヌが必ず直面するといっていいのが、セカンドキャリアの問題。すべてのOGが退団後も幸せな活動を続けられているとは限らないのが現実です。宝塚歌劇団の世界をOGたちの視点からクローズアップする「Spirit of タカラヅカ」、免疫美容家に転身した生尾美作子さんの第2回は、自ら立ち上げたOGのセカンドキャリア支援について。やり抜く力に長けたタカラジェンヌの特性や支援の必要性など、宝塚をこよなく愛するフリーアナウンサーの竹山マユミさんが伺いました。

 ◇ ◇ ◇

適当に切って作った手書きの名刺を持ち、キャミソール姿で2回目の面接に

竹山マユミさん(以下竹山):宝塚歌劇団を退団されて1年間俳優業をされた後、いきなり国立大学医学部ベンチャーの遺伝子研究の会社に面接を申し込むという急展開だったそうですが、残念ながら思いは通じず。その後はどうされたのですか。

生尾美作子さん(以下生尾):私は「入る」と決めたら入るんです(笑)。これは必ず叶えるんだ、これは必ず実現させるんだと。だからもう一度面接をしていただけるようにお電話して、2度目の面接をお願いしました。「すみません。私を雇ったら必ずいいことがあります」って言って。

竹山:それは会社の方もお会いしたくなりますね。

生尾:でも、当初私は企業でのビジネスマナーを知らなかった。例えば、電話の出方やパソコン、メールの使い方など……。もちろん、名刺さえ持っていなかった。2回目面接のときに名刺を持ってきてくださいと言われ、メモ用紙を名刺サイズの長方形にハサミで切って「生尾美作子」って書いただけの“なんちゃって”名刺を作った、そんなレベルでした。しかも、キャミソールで面接に行ったので、向こうからすると「ヤバイ人が来た」っていう感じだったそうです。

竹山:これが名刺? とびっくりされたでしょうね。

生尾:私が面接を申し込んだ会社には遺伝子事業に関わるお医者様や研究者など専門職の方ばかり。私のようなレベルの人間がいるようなところではない。でも、なぜか採用していただいたのです。たぶん、あまりの根拠のない気合が入っていたこととピエロみたいにおもしろそうな人間だったことに興味を持ってもらえたのだと思います。

竹山:生尾さんから発せられるエネルギーがすごかったのですね。入社されてからはどのようなお仕事をされたのですか。

生尾:正直、入社当初は、事業としてお金も生み出せないですし、何もできなかった。そこで、お金を生むという意味で目をつけたのが、当時米国で流行っていた「コンビニフィットネス」という女性専用フィットネスクラブでした。アジアで事業展開できる権利を会社で買ったので、私がその統括責任者として20店舗くらいフィットネスクラブのフランチャイズ展開をして、最終的にバイアウト。そうしてまとまったお金の作り方を経験しました。

 私がトレーニング好きだったことに加え、実家の料亭「生尾」の女将業の実務経験があり、客商売や数字を作るようなことが好きだったというのも大きかったと思います。

竹山:すごいです! 経験をいかすことができたとはいえ、いきなりの大仕事でしたね。

生尾:自分がやりたい遺伝子検査を基にした美容健康事業の立ち上げのために、とにかくお金が必要でしたから。当時の遺伝子分析は糖尿病の治療であったり、病気の人を治すための検査みたいな存在だったりしたのですが、これを健康な人に対する「未病」として使えるんじゃないかと。

 しかし、やはり私には、スキルも学歴も博もない。大学に行って医者になりたいと思っていた時期もありました。でも、学校に通う資金もないし、学業専念の期間の生活費さえもない。勉強だけしていてもお金は入ってこない。だから、働きながらスキルを身に付けようと考えたのです。

竹山:新しい分野へ切り込んでいかれる実務と学びの両方が必要だったのですね。どれほどのエネルギーを要していらしたのか想像もできません。その後はどのように展開していったのですか。

生尾:女性が持つダイエットや美容への思いって、どれだけ世の中の経済が悪化して、みんなのキャッシュがなくなってもなくならないと考えています。つまり、経済が落ち込んでもダイエットや美容市場の需要は落ちない。だから、流行りのダイエット法や美容法ではなく、一人ひとりに合わせたオリジナルの健康美容法というもののニーズが上がってくると思ったのです。そこで発信し始めたのが肥満代謝遺伝子検査でした。

 後は、美容の遺伝子という観点で、健常者の方に遺伝子検査をしてもらい、未来の自分を変えるために使ってもらうことをパッケージ化したのです。生まれてから死ぬまで一生変わらない遺伝子情報を当たり前のようにみんなに知ってもらい、それを基に自分が必要なものを必要なタイミングでケアをして活用していこうと。

 健康だからきれいになりたいという思いは誰もが持っていると思うので、まずは健康になるためにどんな食事や生活スタイル、運動をするのがベストなのか。無駄な時間やお金を使わない健康美容法を確立できる遺伝子検査キットに目をつけたのです。

竹山:今では少しずつ知られるようなお話ですが、時代を先取りしていたということですね。

生尾:そうですね。私が所属していた会社は先見の明がありました。でも18年前はさすがに早すぎました。最初は「遺伝子検査」と言っても誰も振り向いてもくれないし、営業活動も全然うまくいかず厳しかった。全然売れませんでしたし。最近、日本でもようやく「未病」という言葉がメジャーになってきましたが、私たちからすると「ようやく来たな」という思いです。