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宝塚は「天国と地獄が両方ある場所」 元男役がOGの第二の人生の支援を始めた事情

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・瀬谷 宏

教えてくれた人:竹山 マユミ

タカラジェンヌのセカンドキャリア支援でチームを作る意味 「人は孤独が一番つらい」

話が進むに連れ、生尾さんのトーンは高くなっていった【写真:徳原隆元】
話が進むに連れ、生尾さんのトーンは高くなっていった【写真:徳原隆元】

竹山:それと並行して、タカラジェンヌさんのセカンドキャリア支援という活動もなさっているんですよね。

生尾:私の場合、母も妹も宝塚歌劇団出身者なので、タカラジェンヌの特性について常にどこか第三者的な部分で見ていたところがあるんです。タカラジェンヌさんの特性ってなんだろうと思ったときに、ひと言で表すなら「グリット(GRIT)」。やり抜く力です。どんなことでも、最後まで絶対に弱音を吐かずに必ずやり抜く。この力って、今の日本をもう一回立ち上がらせるために絶対に必要な力だと思っているんです。これこそが今の世の中に必要なんじゃないかって。

竹山:宝塚はそれを伝統としてずっと受け継いでいるんですよね。

生尾:それが「宝塚教育」と呼ばれる宝塚のすごさでしょう。「清く正しく美しく」という言葉がありますが、同時に“努力と忍耐と根性”という教えの言葉があるんです。皆さまにお見せする部分は「清く正しく美しく」ですが、宝塚教育では努力と忍耐と根性を徹底的に教え込まれているんです。言ってしまえば、この努力と忍耐と根性があるから舞台の上で輝けるのだろうと。

竹山:タカラジェンヌさんたちの華やかさの芯の部分ですよね。

生尾:でも、どうしても表の部分だけが見られがちです。私もよく周りの方から「いいよね。何もしなくてもきれいなんだから」とか「タカラジェンヌだから仕事が来るんだよね」とか言われるんです。でも、私からすると何もしないできれいでいられるなんてあり得ないですよ。タカラジェンヌであろうがなかろうが、努力しないで輝ける人なんて世の中にはいない。それを見せるか見せないかなんです。タカラジェンヌさんはみんな必死になって最後までやり抜く。だから日々の生活が輝いていられるのです。

竹山:具体的にはどのような形でセカンドキャリアの応援をやっていらっしゃるのですか。

生尾:私がまず考えたのが、チームを作ることでした。今、社会では宝塚歌劇団の出身者が一人ひとり、個別で頑張っています。舞台をやっている人、映像をやっている人、アクセサリーやお洋服を作って売っている人、マナーやヨガなどのスクールをやっている人とか……。それはそれで素晴らしいと思うけど、やはり宝塚の強さって「群舞」なんですよ。仲間と一緒に自己プロデュースするということは大きな力になりますから。

 そこでコロナ禍に入ったタイミングで「ジェンヌコレクション」というチームを作ったのです。メンバー同士が経験やマインドを共有し、新しい時代の生き方を発信してきました。その活動のなかで、社会貢献というものを大きな目的に掲げてもいいのではないかと思いました。そこで今春、名称を「ジェンヌクラス」と変更し、社会に意義を持って活動をするチームとして再始動していこうと動いています。

竹山:素敵なチームができそうですね。どんなことに取り組んでいかれるのですか。

生尾:たとえば、女性のフェムテックという部分ですね。フェムテックとは、女性の悩みを解決するプロジェクト。先日、フェムテックの展示会があり、某企業様のブースで「ジェンヌクラス」という形で8名で関わらせていただき、お客様に対して女性ホルモンや健康について知ってもらおうという活動をさせていただきました。

 フェムテックだけではなく、女性の健康や社会進出については大きく発信していきたいので、私たちの宝塚での経験や知識をベースにした商品を各企業様と一緒に数開発したり、コラボプロジェクトを進めたりしています。強いメッセージ性がある商品が必要です。今年中にはジェンヌクラスをみなさまの目に留まる形にしたいと考えています。

竹山:宝塚を卒業なさってからも不安を抱えている方がいらっしゃるかもしれません。そんな方たちがまたチームを作り、一丸となって物事に取り組める……それは大きな力になりそうですよね。

生尾:宝塚に限らずですが、命をかけて取り組んできたことをやめるというのはものすごく大きな決断です。その先の保証はない。この先どうなるかもわからない。とくに、自分が輝ける光の部分を一度経験しまうと、影に入ったときに不安になるんですよね。必要とされているのかなとか、自分はこの社会にとって本当に生きる価値のある人間なのかなとか。そういうときに、仲間とかチームって自身を奮い立たせるためにはすごく大事だと考えています。

 人って孤独が一番つらい。タカラジェンヌという人種は、ある意味、それぞれ個人がいろんな経験をして苦難を乗り越えてきているため、気が強い方が多いのではないかと。だから、人に弱音を見せて相談することがなかなかできない。怖いとか不安だとかマイナスな言葉はなるべく使わない。なぜ言葉に発しないかというと、それは言霊だから。できないって言っちゃうとできなくなっちゃうし、仕事がないって言っちゃうと仕事がなくなっちゃうから、みんな口には出さない。

 でも、言葉で表さなくても、仲間の存在でお互いが勇気付けられるようなチームになればいいなと思っています。この社会という大海原を乗り越えていくには、やっぱり仲間ですよね。