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仕事・人生

地方移住のリアル 50代で長野へ移住した元記者が感じたこと 「自身の“心の持ちよう”」

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

「どなたかに食べてもらえたら野菜も喜ぶ」 食べ切れない野菜を無料で提供

 それでも、プランターではなく畑という広い土地に地植し、苦労しながら育てた野菜を新鮮なうちに食べられるし、ご近所からのお裾分けもある。それが田舎暮らしならではの大きな楽しみのひとつであることは、間違いありません。

 さらに立科町は、それだけではありません!

 夏が近くなると、町の一角に「ここ、野菜無料です」という素朴な手書きの看板が掲げられるのです。ちょうどバス停が置かれた曲がり角の見やすい場所にある藤棚の下に、曲がったキュウリやナス、ちょっと不格好なトマトにズッキーニ、大きくなりすぎたウリ、山積みのシシトウなどなど……朝採れの新鮮な野菜がズラリと並びます。

 実はこれ、ご近所で家庭菜園をされている有志の方々による活動なのです。

「どうしても食べ切れない野菜が出てしまい、もったいない。どなたかに食べてもらえたら野菜も喜ぶと思って」

 そう話すOさんは立科町出身。首都圏での仕事を定年退職されてから地元に戻り、無料野菜を始めて昨年で11年目を迎えたといいます。いつしか仲間が共鳴し、期間中はほぼ毎日、名前も顔も知らない人たちのために野菜を置いてくださるばかりか、持ち帰る袋まで用意されています。私も“常連”の一人で、夏は無料野菜を覗くのが朝の散歩ルート。車や人が次々と立ち寄り、昼前にはほとんどの野菜がなくなるのも納得です。

“野菜無料活動”を地元のみなさんと手作りで映像化 地元のCM大賞に応募

 移住して2年目となる昨年の夏に、町役場の若手職員から「何か出品しましょう」と、自治体のPR動画の公募企画に対する提案がありました。本企画は「ふるさとCM大賞 NAGANO」と銘打って、長野県のローカルテレビ局abn(長野朝日放送)が毎年、自治体のPR動画を公募しており、最優秀作品は年間365回放送するというもの。

 そこで、地元ケーブルテレビ局にも力を借りて、Oさんらによる野菜無料活動を映像化して応募することにしました。県内限定とはいえ、立科町がほぼ毎日テレビに流れるわけですから、少なからずアピールにはなります。

 自然な構成と、カメラ位置や構図を確認して撮影。素材を撮り終えてからも、ドラフト映像を見ながら「ああでもない、こうでもない」と何度も作り直しました。こうして、野菜を収穫して並べるみなさんと、Oさんの短いセリフ、最後に「分け合い 助け合い 立科町」というレターが流れるシンプルな映像が完成。

 全員が自信を持って応募したのですが、残念ながら選には漏れてしまいました。

 50市町村から66作品の応募があり、どの自治体も知恵を絞って映像を作っているので、今回は私のプロデュース力とシナリオの責任です。それでも、最初は照れていた参加者が徐々に楽しんで撮影に応じてくれたのは、とても喜ばしい光景でした。

 人にも、野菜にも優しい。こんな素敵な取り組みをされている方々が立科町にいることを知ってもらえたら、移住も悪くないなと思ってもらえるでしょうか。

(芳賀 宏)