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宝塚は「楽しく充実していたから卒業できた」 87期のふたりが語った退団のタイミング

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・瀬谷 宏

インタビュアー:竹山 マユミ

同期の絆で結ばれている綾月せりさん(左)と晴華みどりさん【写真:舛元清香】
同期の絆で結ばれている綾月せりさん(左)と晴華みどりさん【写真:舛元清香】

 宝塚歌劇団に入団し、数々の華やかな舞台を経験するタカラジェンヌでも、どこかのタイミングで頭をよぎるのが「卒業」の二文字。87期の同期コンビ、元雪組娘役の晴華(はるか)みどりさんと元月組男役の綾月(あやづき)せりさんも宝塚を離れるにあたり、さまざまな思いをめぐらせました。OGたちの視点からクローズアップする「Spirit of タカラヅカ」。晴華さんと綾月さんの対談第2回は、おふたりの卒業時にあった共通の思いについて。宝塚をこよなく愛するフリーアナウンサー・竹山マユミさんが伺いました。

 ◇ ◇ ◇

「求められているものに応えられない葛藤」と向き合い続けた晴華さん

竹山マユミさん(以下竹山):綾月さんは悩んでいたときに、当時の月組トップスターだった彩輝直(76期、現在は彩輝なお)さんからの助言もあって宝塚を辞めるのを考え直したということでしたが、その後は同期のトップスターだった龍真咲さんが退団なさるのを見送られたのですよね。

綾月せりさん(以下綾月):周囲は、私が一緒に辞めると思っていたみたいでしたね。

竹山:実際、龍真咲さんがお辞めになると聞いたときに退団を考えられたのですか。

綾月:一緒に辞められたらいいよね、みたいな話をしたことはありました。でも、実は私、同時退団を本気で考えたことは一回もなかったんです。同期が辞めるときって、トップスターだろうと普通の子だろうと、残る同期はやることがたくさんあるんです。そういうのも見てきたし、トップスターと私が一緒に辞めたらほかの同期に迷惑かかるだろうなと思ったのと、やはり龍真咲さんを見送りたかったというのが一番大きな理由でしたね。

竹山:晴華さんは、ご自身が旅立つときはどんな経緯があったのですか。

晴華みどりさん(以下晴華):「男役10年」っていう言葉があって、「男役は10年ぐらいやってやっと完成される」という意味なのですが、下級生の頃、「それなら娘役の自分はどれぐらいここにいるのかな」と考えてみたんです。そのとき、研10(編集部注:入団10年目)以上になっている自分の娘役の姿がまったく想像できなくて……。だから自分なりに“娘役10年”と考えて、長くいても10年と思っていました。

竹山:10年目を迎えたときの心境はいかがでしたか。

晴華:さあ卒業と思ったとき、「私、今辞めていいのかな」って自分にちょっと疑問を持ったんです。本当にそれで後悔しないかなって自分に聞いたときに、「やはり今辞めちゃダメだな」って思ったんです。なんか違うなと思って。

 それまで、新人公演とかバウホール公演でヒロインをさせていただいたんですけれども、新人公演を卒業してからは自分の納得いく役になかなか出会えていなかったような気持ちでした。私自身、下級生のときから結構波があって、ものすごく役付きがいいときがあったり、作品のなかであまり自分が求められていないなと思うときがあったり、そんな宝塚人生だったんです。

 それで、研10になったとき、「ロミオとジュリエット」を雪組でやることになったり、「情熱のバルセロナ」「黒い瞳」「ハウ・トゥ・サクシード」などの大作に出会ったりすることができました。そのときの自分は結構充実していて、やっといろいろなことに応えられるという実感が湧いてきたんです。そして11年目になったときに“充実感”というか、私が宝塚のなかで求める幸せはこれ以上見つからないと思い、卒業しようと決めました。

綾月:そんな波があるようには全然思わなかったけど。

晴華:ありがたいことに、私は下級生のときから役はいただけたのですが、なぜかものすごく大人っぽい役とか、下級生なのに色気を求められる役とかが多くて……。それこそトップの朝海ひかる(77期、元雪組男役トップスター)さんのことを慕っている愛人とか(笑)。自分の実力以上のものを求められていた感じでした。

 自分はそれこそ宝塚らしい、かわいらしい娘役に憧れて、かわいいドレスを着て、かわいい歌を歌って、ニコニコしながら踊るような場面に出たかったというのはありました。でも、すごく難しい歌をソロで急にもらうこともあって……。とてもありがたいですし、一生懸命練習していくのですが、思うように歌えない。それがつらくてストレスもあったり、自分が何を求められているのかよくわからなくなってきてしまったりして、そこで“第1次やめようかなブーム”がきました。

竹山:ええっ。どうやって乗り越えられたのですか。

晴華:もうこれ以上、実力がない姿を舞台で見せていっても役は付かないだろうなと思っていたときに、バウホール公演のヒロインをさせていただくことが決まったんです。「さすらいの果てに」という作品ですが、まさか自分がヒロインだと思っていませんでした。せっかくいただいた役なので頑張ろう、全力でこれに向き合っていこうと思いました。

竹山:めぐり合わせというものを感じますね。

晴華:私には実力なんてないし、何もできないかもしれないけれども、自分の100%を出そうと切り替えて公演に臨んだとき、ありがたいことに褒めていただくことが多かったんです。この作品で認めてもらえなければ退団! と考えていたので、頑張って良かったなと思いました。すると、次に新人公演のヒロインが決まりました。そういうことが続いたので、『もうちょっとここで頑張ってもいいのかな』と思い、そのときは踏みとどまりました。

 本当に、自分の実力のなさと何もできないことの歯がゆさ、求められていることに応えられないという葛藤が、自分にとってはすごくつらかったんです。でも10年間頑張ってきたときに、下級生に教えられることも増えてきたし、自分としても役を掴むときの心地良さみたいなものがなんとなくわかってきたという充実感みたいなものを感じられたので、11年目に自分は辞めることができたという感じですね。