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どんなことを学んでいる? 2020年度から必修になった小学校の英語教育の中身とは
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早期に英語教育を始めるメリットとは
文科省で必修化されているのは小学3年生からですが、学校や行政区によってはもっと早く、小学校入学と同時に英語に触れる機会を授業外で取り入れているところがあるといいます。なぜ、それほどまでに英語教育を早めているのでしょうか。
その理由として佐藤教授は、英語の早期学習には「メリットしかないから」と指摘。若ければ若いほど一般的に聴力が優れており、聴いたままの音を真似して発音できるため、日本語読みの発音ではなくネイティブスピーカーに近い発音を自然と発することができるようになるといいます。さらに、低学年生特有の積極性も大きく影響しているそうです。
「小学生は学校でよく歌を歌いますよね? とくに低学年生というのは英語の意味がわかっていなくても、音を真似して楽しそうに歌います。つまり、自然に英語学習に入ることができるんです。これは大きなメリットなんです。さらにもうひとつ、低学年生は『間違ったらどうしよう?』『人前で話すのは恥ずかしい』とあまり思わない児童が多く、積極的に友達の前で発表したり、コミュニケーションを取ったりすることができるんです」
しかし、国語力が身についていない状態で英語教育を始めることに抵抗を感じる親世代も少なからずいるようです。文法や発音が異なる日本語と英語が混乱してしまい、国語力が発達しないのではないかと懸念する声も。佐藤教授は、この不安をきっぱりと否定します。
「それはありません。一家で海外に住んでいて、日本語は家庭内でしか使わないといった特殊な環境である場合は別の話となりますが、日本に住み、日常生活で日本語を母語として多くの時間を使っているのであれば、日本語の習得には全く影響はありません。というのも、私が幼稚園の園児を対象に行った研究調査では、英語を幼いときから学んだグループと英語は全く学習したことがないグループとでは、前者のほうが日本語の未知語(例えば「かがみ」の語順を変えて「みかが」など、日本語の可能な音声配列ではあるが、知らない単語のこと)の反復力も高くなった、という結果が出ているんです。英語を集中して聞く習慣ができて、日本語の獲得にも良い影響が出ている可能性があります」
佐藤教授は、英語の授業数をもっと増やしてもいいと助言します。実際に文科省の特例校に指定されている小学校の中に1年生から週3時間程度、英語教育を取り入れている学校があるそう。子どもたちにはほかの教科でもとても積極的に授業に参加する姿勢が見られるといいます。
「結局、友達と積極的にコミュニケーションを取るとか、意見を言い合うとか、発表するとか、新しい英語教育というのはそういったコミュニケーション能力を養う活動を行っているので、それはほかの教科にも必ず良い影響をもたらしてくれるんです」
英語教育の専門家が見据える英語教育の未来 課題解決のためには
2020年度から始まった小学校の英語教育も今年度で3年目。課題について聞いてみると、佐藤教授は地域や学校による熱量の差を挙げました。
「私が一緒に研究に取り組んでいる企業さんのアンケート結果を見ると、児童の約6割は『英語が好き』と答えます。また、実際に英語教育をお手伝いさせていただいている小学校では約7割が『英語が好き』だと回答。なかでも、必修である週1回の授業以外で、朝の時間や学級活動時に英語を使った自己紹介をするなど、学校全体で積極的に英語教育に取り組んでいる小学校では、約9割の児童が『英語が好き』だといいます。
さらにそういう学校の先生たちは一生懸命に英語教育の研修に取り組まれているので、その結果、先生たちの外国語の力が上達し、授業でも英語を使われることに積極的になります。すると、子どもたちはもっと英語が好きになり、スムーズにコミュニケーションが取れるようになっていくわけです。そうやって『外国語活動』とは何かを理解し、積極的に取り組んでいる学校や地域とそうではないところとの差が、同じ公立学校でも出てきてしまっているんじゃないかと感じています」
冒頭の恵くんのように、近年では学校以外で英語教室に通ったり、入学前から英語の幼児教室に通ったりする子どもたちが増えてきています。そういった子どもたちが小学校で触れる英語が「つまらない」「すでに知っている」と感じ、「英語が好きじゃない」といった感想を持つ可能性もあり、佐藤教授は「教える先生方も研修を受けるなどの工夫が必要になってくる」と指摘します。
小学校の教員免許は小学校で学ぶすべての教科を教えることを前提としています(※)。現状はクラス担任や、中学・高校の教員免許(英語)を持っている専科の先生が教えているそうです。小学校での英語必修化は2020年度から始まったばかり。今後、教える側の技術の向上が、子どもたちの英語学習により良い効果をもたらしそうです。
※2022年度から高学年を対象に教科担任制が段階的に導入され、音楽、家庭、理科などのより専門性が高い教科においては、クラス担任ではなく教科担任が複数のクラスを受け持つことになっている。
玉川大学大学院教育学研究科(教職専攻)名誉教授。株式会社Study-plusの代表取締役も務め、乳幼児の言語獲得・発達研究、科学的成果に基づく英語教育の提案と指導教育に従事。2007年より町田市教育委員会の委託を受け、42の小学校へのカリキュラム・教科配信を始め、中央区、千代田区、目黒区、板橋区、中野区、練馬区、台東区、立川市、国立市など多くの教育委員会や小学校にて英語研修講師・公演を行っている。
(Hint-Pot編集部・出口 夏奈子)