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「けがを理由に諦めないで」 過酷日程に苦しんだ宝塚元娘役が退団後に見つけた新天地

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・瀬谷 宏

インタビュアー:竹山 マユミ

ダンスで注目集めた現役時代 「でも腰痛が悪化して…」

体のケアの大切さを訴える小田島夏希さん【写真:舛元清香】
体のケアの大切さを訴える小田島夏希さん【写真:舛元清香】

竹山:夏希さんはいつから宝塚を目指していらっしゃったのですか。

夏希:私は池田理代子先生の漫画「ベルサイユのばら」が好きで、それをよく読んでいました。あるとき、同じことをやっているテレビ番組が放送されていて、それを観て宝塚歌劇団というものがあると知りました。そこにまさか入れるとは自分も思っていなかったのですが、とても素敵な世界だなと。同じようなことをやってみたいと思って受験スクールに通い始めたんです。バレエなども小さいときからやっていなかったからすごく大変でしたが、中学校から高校に上がるくらいのときに初めて受験スクールに行って、バレエのレッスンを始めました。

竹山:ええ~! それはちょっと衝撃です。もっと早くからダンスやバレエのレッスンを始めていらっしゃったのかと思っていました。

夏希:確かに、小さい頃からお稽古してこられる方が多いと思います。私はスタートがかなり遅かったですね。中学生といっても、そろそろ大人の体ができあがってきている頃に始めたので、けがが多かったんだなと思います。ボディワークで体の仕組みなどを学んだ今になって思うと、そりゃけがするよなって。体も骨もできあがってきたところから、急にバレエの動きをやるとけがしてしまうのは無理もないことで……。とはいえ、小さいときからやっていても、やりすぎてけがしてしまうこともあるので、どちらがいいとか悪いとも言えないですが……。

竹山:今もダンスに関わっていらっしゃる夏希さんは「ダンサー」というイメージがあるだけに、意外なお話です。

夏希:ありがたいことに、在団中はダンス場面にたくさん出演させていただきました。私にとってダンスを始めたのは遅いのに、本当にありがたいことだったなと。

竹山:ダンスが自分にすごく合っていて、ここで輝けるという実感もあったのですか。

夏希:それがそうでもなかったんですよ……。そもそもバレエを始めたのが遅いこともあって、ダンス場面でそんなに使っていただけると思っていませんでした。決してダンスが得意だと思って入っていたわけではないので。

 そして、宝塚ではもう十分に貴重な経験をたくさんさせていただいたので、今度は宝塚以外の場所で演じたり、表現したりしたいと思い、入団6年目のときに退団を決めました。その頃は腰痛が悪化していて、宝塚の公演ペースで仕事を続けることが身体的に難しいと思っていたのもあります。そんなこともあったので、劇団にいたときにすごくダンスが好きでずっと続けたいと思っていたわけではなかったんですよ。

竹山:ご自身としてはダンスやお芝居など、どれが一番ときめくものだったのですか。

夏希:私はバレエを始めたのも遅かったですし、お芝居しかできることがないなと思っていました。音楽学校時代もお芝居の授業は楽しかったです。お芝居がしたいと思って入ったつもりだったのですが、ダンスをたくさん踊らせていただいて。それはすごくありがたいことでしたが、プレッシャーもありましたね。

竹山:娘役さんならではの可憐な見せ方という、宝塚らしい部分においてはいかがですか。

夏希:当時の私なりに「宝塚の娘役らしく」と努力はしていたつもりなのですが……。その時期にご一緒してくださった方々にお聞きしたら、たぶん「全然宝塚らしい可憐さはなかったよ」と言われてしまうかもしれません(笑)。どちらかというと体ががっしりしていて、落ち着いて見えるほうだったと思うので、悲しいことに骨格的にも“可憐”ではなかったかもしれませんが、公演ごとに役柄や衣装に合わせて、髪型や髪飾り、アクセサリーを考えることは好きでした。

竹山:それが新人らしからぬと言われていた良さにつながっていたかもしれませんね。

夏希:そうだったらとてもうれしいです。

過酷な日程をこなすタカラジェンヌには「けがなどを理由に何かを諦めてほしくない」

竹山:在団時は兵庫での公演があり、東京での公演もあり、地方公演や小劇場での公演もあって過酷な日々だったと思います。体への負担もすごく大きかったのでしょうね。

夏希:そうですね。私は成績もそんなに良くなかったですし、私たちの頃はメディアの仕事もなくて舞台での活動しかありませんでした。下級生で成績が良くないと公演メンバーにも入れず、休みだったんですよ。でも、ある程度学年が上がってくると本当に休みがなくなり、ずっと何かの公演のお稽古か本番という日々でした。今思うと本当にありがたいことですけど、体の負担はすごく大きかったと思います。

 今は宝塚音楽学校にピラティスの授業が入っていたり、劇団でもピラティスのレッスンをしたりしているようですが、私たちのときはダンスレッスンしかなく、そこまで体のケアに意識を向けることがありませんでした。ケアすることの大切さを知っているだけで、痛めなくて済むことがたくさんあったと思います。今、私が行っているレッスンには宝塚音楽学校への入学を目指す宝塚受験生や現役劇団生の方、さらにOGさんにも来ていただいていますが、ケアしながら健やかな状態で体を長持ちさせ、けがをしたとかどこかが痛いということを理由に何かを諦めることがないといいなと願っています。

竹山:私たちが知らないだけで、やはり体が悲鳴を上げて退団される方はいらっしゃったのですね。

夏希:昔はいらっしゃったと思いますし、今もたぶんいらっしゃるのではないでしょうか。確かに楽なスケジュールではないと思います。

竹山:あれだけ踊っていたら、体のメンテナンスのための休養が必要だとみなさんも思ってらっしゃるでしょうし、きっと大切なことですから求められますよね。

夏希:若い現役さんといっても激しく動いたら体は疲れますし、若いからこそケアしてあげたほうがいいこともあるので、休養はすごく大切なことですね。