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仕事・人生

副業で変わった人生 元読売新聞の女性記者が飲食店のアルバイトを続けるわけ 衝撃だったシェフとの出会い

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム

慣れない仕事にオロオロあたふた…新人記者に戻ったような気持ちに

オーナーシェフの岩井圭さん(左)と談笑【写真:Hint-Pot編集部】
オーナーシェフの岩井圭さん(左)と談笑【写真:Hint-Pot編集部】

 いざ仕事を始めると、慣れない作業に戸惑いの連続だったといいます。

「最初は週1回、土曜日の夜だけ働いていたんですよね。ホールって料理を運ぶだけじゃなくて調理補助もあるし、もちろん皿洗いもある。ドリンクも全部作るんですけども、どこに何があるかも分からない。要領が悪くてパパッとできなかったりして、本当一から全部覚える感じでした。私は記者としては25年選手の超ベテランなわけなんですけれども、ここでは1新人なのでオロオロあたふたって感じでした」

 ちゅう房はシェフが1人で担当。次第に慣れてくると、今度は逆にシェフとけんかすることも増えました。自らの性格を短気でけんかっ早いという岩永さん。2人の衝突を見かねて、他のアルバイトが仲裁することも日常的なことだそうです。

「バイトが週3回になった途端、シェフの期待値が上がって、バンバン怒鳴られるようになりました。料理人の世界ってやっぱり優しく丁寧に教えるよりかは、徒弟制度みたいなところが今も残っているので、そういう世界で生きてきた人なんだなっていうのは、私はある程度は納得したんですけど、頭で納得しても心がついていかないときがたまにあって、いまだにけんかするって感じです」

 それでも続けているのは、理由があるからです。

「面白いんですよね。常連さんはみんないい人ばっかりで、常連さんと会いたいみたいなところもありますし、シェフも普段は優しくて面白い人で、料理もすごくおいしいので、それはやっぱり続けたいなって思います。けんかするときは『やめてやる!』って瞬間は思うんですけど、ただやっぱりやめないよねって心のどこかで思っている。それに記者の仕事と全然違う面白さもあるんですよ。記者の仕事ってどっちかというと、客観的に第三者的に誰か別の人の人生を取材して書く感じじゃないですか。ここでは自分が何ていうか、登場人物の1人というか、当事者の1人になっている感覚がとてもあって、それはすごく自分の働き方としても新鮮な感じなんですよね」

 飲食店でのアルバイトを始めたことをnoteにつづったことが反響を呼び、初のエッセー『今日もレストランの灯りに』(イースト・プレス)を発売した。そこには、「私はこの店でバイトを初めて、大袈裟ではなく人生が楽しくなってきている」との帯がついている。

「まさにそうなんですよね。過去に取材した人たちが遊びに来てくれますし、常連さんには大工さんや看護師さん、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の奥さんがいる人もいます。本当に別の人生を生きている人と交われる場所で、その人たちがもうここが好きでここが居場所になって何度も来てくれるからつながりが生まれているんですね。シェフを介して。私、居酒屋に通うのが好きで居酒屋でも常連同士で親しくなることはよくあるんですけど、そこよりも濃厚な関係をここでは築いているなって感じがとってもするんですよ」

 レストランが舞台とすれば、岩永さんも登場人物の1人。ときには自らの悩みを聞いてもらうこともありました。本業で落ち込んだことがあったとき、慰めてくれたのも常連たちだったといいます。

「私がここに座って一緒に飲んでいたとき、おいおい泣き始めたから、心配して帰り道を送ってくれた人もいました。私は家族の前でも泣いたりしないんですけど、そういう場所になっている。すごく面白くないですか」

 岩永さんにとって副業は、収入を得るという以上の新たな価値をもたらす居場所になりました。