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自称“乗り鉄”の韓国紙元東京支局長記者 「日常に溶け込んでいる多様な風景」 日本鉄道の魅力を語る
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日本の鉄道文化を韓国での観光政策に
この「旅情」ということで言えば、日韓でこんな例を出してくれました。
「日本の新幹線に乗っていつも驚くのが、乗客のみなさんが非常にくつろいでいることです。車両が動き出すと缶ビールをプシュッと開けてうれしそうに駅弁を食べ始めます。そんな姿からは、心の底から旅や出張を楽しんでいる様子がうかがえます。一方、韓国にも駅弁の売店はありますが、そのような光景はほとんど見かけません。たとえるなら、日本は『列車に乗ってからが旅行』、列車を移動の手段と考えている韓国は『列車を降りてからが旅行』、そんな感じがしますね」
尹さんは「日本の鉄道文化を韓国の観光政策に応用できないか」と日々研究中だといいます。その一方で、韓国の鉄道の便利な点にも言及しました。
「たとえば、池袋駅から横浜のみなとみらい駅に向かう場合、今では乗り換えなしの副都心線を使う方が多いと思いますが、実は副都心線は渋谷駅までで、渋谷駅から横浜駅までは東急東横線、横浜駅からみなとみらい駅まではみなとみらい線と運営会社が異なります。もちろんSuica、Pasmoなどの交通系ICカード1枚で乗車・決済できますが、運営会社が異なるため、運賃はこの3つの路線の合計金額になります。
一方、ソウルでは首都圏電鉄に属している路線の運賃はすべて通しで計算されます。たとえば、ソウル・金浦空港駅から冠岳山駅まで行く場合、9号線地下鉄(金浦空港駅~堂山駅)、2号線地下鉄(堂山駅~新林駅)、新林線軽電鉄(新林駅~冠岳山駅)を乗り継ぐルート。料金は交通カードを利用する場合は1550ウォン(171円)です。9号線と2号線はソウル交通公社が運営し、新林線の軽電鉄は南ソウル軽電鉄が運営していますが、乗り換えをする場合も追加料金はかかりません。また、冠岳山駅で降りて市内バスに乗る場合にも追加料金は必要ありません」
長距離を短時間で移動できる高速鉄道の違いは改札
日韓では乗車運賃についてだけでなく、代表的な高速鉄道にも大きな違いがあるようです。
「韓国のKTXは乗車時も降車時も改札はありません。乗客のきっぷ購入と自己管理を信用するProof-of-payment(信用乗車方式)を採用しており、欧州でも普及しています。KTX開業時に自動改札機の開発・導入を試したところトラブルが相次ぎ、結局、中止したという経緯はありますが、全体的なコストを考えるとこちらのほうが効率的で良い選択だったと思います」
ちなみに尹さんは、日本の列車に乗るとすぐに寝てしまうそうです。
「『♪ガタンゴトン、ガタンゴトン』というレールの継ぎ目の音が心臓の鼓動のように聞こえます。母親のお腹の中にいる胎児のような気持ちになるのでしょうか。心地良くなってぐっすりと眠ることができます。最近はJR在来線や大手私鉄でロングレールへの交換が進んでいて『♪ガタンゴトン』の音は減っているようですが、路面電車に乗ると『♪ガタンゴトン』という音が体に響きます。韓国ではこういう体験はほとんどできません。列車が好きな私は自分のことを“乗り鉄”だと思っていますが、実は“寝る鉄”といったほうが正しいようです(笑)。安心して眠ることができるのが、日本の鉄道の最大の魅力かもしれませんね」
(鄭 孝俊)
鄭 孝俊(てい・こうしゅん)
元全国紙記者。在職中に東京大学大学院に入学し、仕事の傍ら研究生活に入る。文化人類学やメディア論に関心を持ち、韓国エンターテインメントとファン行動について論文を執筆。専攻は日韓メディア比較論。日本や韓国だけではなく、東南アジアの伝統芸能や食生活にも関心を寄せている。