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女児出産も「ベテラン看護師は泣き崩れた」 絶望の育児、アメリカ人夫に反発…つかんだ家族の幸せ

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム

「ダウン症ってバレるじゃないか」 本棚を蹴り上げ激高

ガードナー瑞穂さん、ブルースさん(上段右から)、まりいちゃん、りりいちゃん(下段右から)【写真提供:ガードナー瑞穂さん】
ガードナー瑞穂さん、ブルースさん(上段右から)、まりいちゃん、りりいちゃん(下段右から)【写真提供:ガードナー瑞穂さん】

 一方、ブルースさん以上にショックを受けたのがガードナーさんです。

「私のほうが本当に情緒不安定。放心状態になって、ぼーっと立っているときもあるし、人生の価値観が大地震でぐちゃぐちゃになったかのようでした」

 感情の行く手を遮られ、看護師に八つ当たり。ブルースさんが「僕はまりいより、あなたを心配していた」と述懐するほどの混乱ぶりでした。

「合併症はなく、夫はそれだったら大丈夫だと思ったのですが、私は無知だからパニックです。白血病になる可能性、寿命が短い可能性、うまくいったら10歳ぐらいの知的レベルになれるかなとか、全ての可能性をわーっと言われるわけで」。子どもの将来を考えれば考えるほど、絶望的な気持ちになりました。

 ただ、ブルースさんは早期にダウン症であることを受け入れました。「僕はエイデン、りりいのために働かないといけない。彼らは、食べて、寝て、学校に行く普通のルーティンがある。あんまりこれに、落ち込んではいけないと思いました」。対するガードナーさんは気持ちを切り替えることができません。ガードナーさんはまりいちゃんが2歳半になるまで、外で「かわいいですね」と声をかけられると、「この子はダウン症なんです」と返していました。

「自分の中でバランスが取れていませんでした。不安定でした。それを夫にやめろと言われたんですけど、言わないと帰れない。相手はびっくりするわけですよ。言われたほうも試される。『優しい子になるんですね』と言ったり、『人生いろいろありますね』と言ったり。それを別に何とも思わず、帰っていくというのを何回も繰り返していました」

「妻はほめ言葉を受け入れることができなかったのです」とブルースさんは振り返ります。

 国籍の異なる夫との間で、価値観の違いを巡り、衝突したこともありました。

 ブルースさんが、「まりいの写真をフェイスブックに載せたい」と相談すると、ガードナーさんは本棚を蹴り上げ激しく怒りました。「ダウン症ってバレるじゃないか。家族だけだったらいいけど、何千人くらい友達いるよね? 私はセレブじゃないんだ。私のプライベートは私のものだ!」。ダウン症児であっても家族の一員として受け入れたいブルースさんに対し、親しい人たちに公にしたくなかったガードナーさん。その溝はなかなか埋まりませんでした。

「無理無理ダウン症の子は」→「いや、いけるいける」

「私は優しくなりました」とガードナーさん【写真提供:東京ニュース通信社】
「私は優しくなりました」とガードナーさん【写真提供:東京ニュース通信社】

 消極的な姿勢だったのは、ガードナーさんだけではありません。ガードナーさんの母は長年自身の姉にさえ話していなかったとガードナーさんは言います。23年9月、まりいちゃんのことがテレビ放送されると、初めてまりいちゃんがダウン症であることを知った親戚もいました。生まれてから6年がたとうとしていました。

「田舎では、いまだに障がいの子の話をすると、あの子は連れてくるなと言われるところがあります。『おじいさんが亡くなったけど、葬式にはあの子は連れてくるな』と。だから障がいの子を持つママの中には、日にちをずらして、おじいちゃんにさよならを言った人もいます」(ガードナーさん)

 このような風習や考え方がまだ日本に残っていることに、ブルースさんは「本当に信じられない。ありえない。とても痛々しい」。日本人の「悪い癖」だと非難しました。

 ガードナーさんはどのように、前を向くようになったのでしょうか。大きなきっかけになったのが、つらい体験を共有してくれる人の存在でした。

 ダウン症であることを話すと、同じマンションに住んでいるイラン人女性は、彼女が3番目の赤ちゃんを死産したことを告白。また、清掃員の女性は一番下の息子が自殺未遂を起こし、半身不随になっていることを教えてくれました。ガードナーさんはあふれる涙を抑えることができませんでした。

「生まれたときは『エッ、そんな……。私は健常の子どもを育てるママなんだ。いや無理無理ダウン症の子は』と受け入れられなかったけれど、だんだん『いや、いけるいける』に変わり、最後は『私じゃないといけないんじゃないか』ぐらい受け入れた」。ブルースさんのサポートを受けつつ、意識はがらりと変わっていきました。