Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

ライフスタイル

「まさか自分が…」と気づかず 介護と育児の“ダブルケア”、今後3人に1人が経験する予測も

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・白石 あゆみ

介護者になっていることに気づかない人が多い

NPO法人こだまの集い代表理事・室津瞳さん【写真:Hint-Pot編集部】
NPO法人こだまの集い代表理事・室津瞳さん【写真:Hint-Pot編集部】

 これまで100人以上のダブルケアラーと対話をしてきた、NPO法人こだまの集いの代表理事・室津瞳さんによると、Aさんのように、自身が介護者状態になっていることに気づいていない人はとても多いといいます。

「一般的に、身体的な介護を『介護』だと思っている人が多いですが、たとえば親の声が小さくなった、何度も同じことを言うようになったなどの、ちょっとした異変を気にかける状態からお看取りまでを、私たちは『介護』といっています。けれど、人には正常性バイアスがあって、まだまだ自分の状況は大丈夫、ダブルケアではないと思っている人がけっこう多いんです」

 なかには、介護施設に入所する家族がいても、ダブルケアではないと思っている人も。しかし、自分が介護者であることに早く気づくほど、早めに対策を取ることができ、親が元気でいられる期間が長くなる可能性が高まります。

ダブルケアで心の病気になる場合も 大介護時代を生き抜くには

 また、ダブルケアラーのなかにはAさんのように仕事をし、実際にはトリプル以上のケアになっていることも少なくありません。高齢化率が上昇し、現役世代の割合が減少していくなかで、こうした人たちのための制度を整えていくことは急務だと室津さんは警鐘を鳴らします。

「ダブルケアは育児、介護、仕事と常にマルチタスクで、かなりの調整力とスキルが必要になってきます。男女問わず、体力が削られると体だけでなく、うつなど心の病気になる場合も。ダブルケアの健康被害は、これから最大の課題になってくる労働力人口の減少に拍車をかけます」

 こうした、仕事と介護の両立が困難なことに起因する労働生産性低下などによる経済損失は、2030年に約9.1兆円と試算されており、この金額は年々増す見込みです。過去最高を記録した2023年のインバウンドによる経済効果は約5兆円。そう考えると、かなりの損失であることが実感できます。

「この損失は、介護離職によるものだけではありません。86.2%はパフォーマンス低下によるものです。退職していない人が多いのに、これだけ大きな損失があるということに、企業などは早急に向き合っていかなければいけません」

 介護制度や子育て支援は充実してきているものの、大企業であってもうまく運用されていない側面があります。室津さんは、働きたい人が仕事を続け、誰もが介護を理由にキャリアを中断しない社会の実現を願います。

「大介護時代はどうしても避けられないタイムラインだから、みんなが幸せに生きられる仕組みに変えていく――個人で悲観する必要はありません」

 これまで、介護や育児は家族で行うべきものとされてきました。しかし、労働人口が減るこれからは個人レベルで頑張るのではなく、国を挙げてこの実態に対応していかなければなりません。そして、私たち自身も超高齢社会に向けて、意識を改革していく必要があるでしょう。

※この記事は、「Hint-Pot」とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。

◇室津瞳(むろつ・ひとみ)
NPO法人こだまの集い代表理事。看護師、介護福祉士。ダブルケアと仕事を両立する難しさを実感した自身の経験から、社会支援の整備やダブルケア当事者の課題解決のため、2019(令和元)年5月にNPO法人こだまの集い設立。対話型のワークショップには、現在200人ほどが参加。ダブルケアカフェやセミナー、講演会、研究活動、執筆活動など多岐にわたるアプローチでダブルケアの問題に取り組んでいる。NPO法人こだまの集い公式ウェブサイト:https://www.kodamanotsudoi.com/

(Hint-Pot編集部・白石 あゆみ)