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「そんなレストラン、フランスにない」 フランス初の茶懐石料理店でミシュラン一つ星 すべて「日本産」にこだわるワケ
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3年ものブランクを経て、パリで茶懐石の店をオープン
約3年のブランクを経て、2023年1月、ついに悲願のオープン日を迎えました。博多のラーメン店は、もともとサポートしてくれていた株主に買い取ってもらえることに。京都スタイルの「茶懐石 秋吉」は、パリで純粋な日本料理の店を出そうと決めていた秋吉さんの理想が詰まった店です。
料理だけではなく、茶道具や掛け軸、器にもこだわりがあります。器は日本から90箱も運んだそうです。2013年から集め始めた器は、料理を彩る大切な存在。唐津の陶芸家・田中佐次郎作の片口、黄瀬戸、備前の鉢など多彩な器がそろっています。日本の職人たちが、日本の美を伝えてほしいと願いを込めて秋吉さんに託した作品たちです。
公邸料理人としてパリにいた頃は、入手に苦労した和の食材ですが、今は少し手に入りやすくなっているようです。
「最近では、多くのフランス料理のシェフが日本の素材を使っていることもあって、専門の輸入業者がいて意外と苦労していません。日本の季節感を表現するためのあしらいとしての大根の花やネギ坊主も入手でき、助かっています」
パリ郊外で日本の野菜を栽培する「山下農園」とも取引があり、おいしい野菜を入手しています。同園は、ミシュランの星付きシェフがこぞって欲しがる野菜で、新参者はなかなか受け入れてもらえないといわれていますが、秋吉さんの料理は高く評価されています。

「大変なのは、魚だけです。探しに行く時間はないので、魚介の産地・ブルターニュの信頼する業者さんと、メールと電話でやりとりをしています」
魚料理に関しては、そのままカットして刺身として出せるクオリティの魚がなかなか入手できないため、下処理が必要です。生魚を食べ慣れないフランス人のためにアレンジし、皮目を炭火であぶり、鯖寿司を出しています。目の前であぶるパフォーマンスもフランス人ゲストには珍しく、コースのハイライトとして人気になっています。
また、フォアグラをあん肝のように使うなど、フランスならではの食材を日本料理の中に違和感なく組み込むことにも、やりがいを感じているといいます。
ミシュラン一つ星を獲得 1か月先まで予約が取れない店に

日本酒やお茶のペアリングはもちろん、ワインのペアリングも日本ワインのみを提供。ドリンクは「日本産」をコンセプトに、全国から厳選したもので構成されています。
「8割はフランス人のお客様です。フランスの方は一度来店すると、みなさん、良い経験になったと喜んでくださいます。扉を開けると静寂が広がる、そんなレストランはフランスにないですから。それだけで非日常に浸っていただけます」
今はミシュラン一つ星も獲得し、1か月先まで予約が取れない名店に。軌道に乗った今、次に目指すのは、さらなる星獲得でしょうか。
「あまり固執していません。茶の精神で淡々と料理を作るだけです。そのなかでも日々満足することなく、ブラッシュアップしながら、料理や雰囲気、サービスをより進化させて、茶懐石の世界を堪能していただきたい。それが結果的に評価されればうれしいですね」
(Miki D’Angelo Yamashita)

Miki D’Angelo Yamashita
コロンビア大学大学院国際政治学修士、パリ政治学院欧州政治学修士。新聞社にて、新聞記者、雑誌編集記者、書籍編集として勤務。外信部、ニューヨーク支局、パリ支局、文化部、書籍編集部、週刊誌にて、国際情勢、文化一般を取材執筆。