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【私の家族】「もう犬は飼わない」 16年連れ添った先代犬の旅立ちでペットロスに 銅版画家・山本容子さんと保護犬の運命的な出会い
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父親が犬好きで、幼い頃から家族として何匹もの犬たちと一緒に暮らしていた、銅版画家の山本容子さん。作品にかわいらしい愛犬たちが登場することでも人気で、都内で開催中の版画展の作品にも多数描かれています。現在は、保護犬だった「ルカ」と一緒に暮らしていますが、30代のときに出会った「ルーカス」との思い出は、今でも鮮明に心に残っているそう。山本さんに愛犬にまつわるエピソードを伺いました。
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海辺のアトリエの庭に突然現れた雑種犬
山本さんの犬にまつわる最初の記憶は、2歳のとき。家族が飼っていたスピッツが、ベランダから落ちそうになっていた山本さんをくわえて助けてくれた思い出だそうです。以降、家族の一員として何匹もの犬たちとともに暮らしてきました。
大人になって初めて自分で飼った犬は、鎌倉にある海辺のアトリエで暮らしていたときにやってきました。もう40年近くも前のことですが、今でも鮮明に覚えているといいます。ある日、庭から聞こえた鈴の音。猫だと思って気にしていませんでしたが、数日続いたため思わず窓の外を見ると、生まれて数か月ほどの痩せ細った子犬がちょこんと座っていました。
白いソックスをはいているような足に立ち耳の雑種。庭にある小さな生垣で雨風をしのぎ、食べ物を探しに出てきたようでした。迷い犬なのか、捨て犬なのか、それとも……。一生懸命鳴いて家に入れてほしいとアピールする様子を哀れに思いつつ、こんな言葉をかけます。
「今、あなたの面倒を見ることはできないの。ごめんね」
しかし、子犬は帰りません。あまりにお腹をすかせているのでごはんをあげたところ、ぺろっと食べて、庭に置いてあった銅版画用のプレス機の下のサンルームに入り、くつろぎ始めました。飼い主さんが現れないか、しばらく様子を見ることに。
その頃の山本さんは、人生で最も活動的な30代。家を留守にすることが多く、縛られたくない、貧乏してでも海外に行きたいという野心にあふれていました。だから、犬は飼わないほうが良い。子どもの頃から家族の一員として何匹もの犬たちとともに暮らしてきた経験から、そう思っていたそうです。
結局、飼い主さんは現れず。いつの間にかすっかり家族の一員となり、以来16年間、ともに暮らすことになります。
名前は「ルーカス・クラナッハ」。最初は子犬に名はありませんでした。しかし、ドイツに行ったとき、ルネサンス期の画家ルーカス・クラナッハの絵の中に痩せた猟犬が描かれた作品を見つけ「うちの子に似ている」と名を借りました。