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仕事・人生

実家のケーキ店に無関心 「MORI YOSHIDA」を手がけるパティシエがフランス菓子の奥深さに目覚めるまで

公開日:  /  更新日:

著者:Miki D'Angelo Yamashita

文化と歴史 お菓子作りの本質に気づく

 ホテルでの上司で、日本の洋菓子界を代表するパティシエのひとり、横田秀夫シェフも大きな存在でした。

「横田シェフからは次々に難しい課題を出されました。ランチのデザート、季節の新作など。未経験のことに取り組むにあたり、お菓子作りの発想には、フランスの文化や歴史を知る必要があると気づいたんです」

 フランス菓子は、フランスの古くから伝わる技法を用いて作られるものです。地域ごとに特色あるおいしいお菓子がたくさん存在し、それがフランス菓子の最大の魅力ともいえます。その背景には歴史や文化があることに気づき、ますます興味が湧いてきました。

 日本でよく見る洋菓子とは、そんなフランス菓子を日本風にアレンジしたもの。イチゴのショートケーキなどがその代表格で、フランスでみかけることはありません。

 吉田さんは就職する前、22歳のときに、フランスの国立製菓学校に留学したことがありました。しかし、そのときは伝統的なフランス菓子のおいしさが理解できず、半年で帰国してしまいます。

「日本人がフランス菓子を作ることの意味とは何か」との迷いがあったそうです。たとえば、カリフォルニアロールを日本人が見て違和感を持ったように、日本のフランス菓子は、フランス人の目にどう映るのだろうか……。

「自分はアジア人。フランス人のように小さい頃からフランス菓子を食べていたわけではないし、(フランスで新年を祝う)ガレット・デ・ロワのフェーヴが当たるのを楽しみにしたり、イースターのときに庭で卵を探したりしたこともない。フランスの歴史や文化を知ったうえで、新しいものが求められる、そのバランスがわからなかった」

 そう、当時を振り返った吉田さん。その後、ハイアットに就職し、菓子作りに真剣に取り組む同僚や上司に恵まれ、コンテストで実績を積んでいきます。年齢を重ねていくうちに、「自分はどんなパティシエであるべきか」見えてきたものがありました。

「フランス菓子は、伝統的なものが良しとされるところもありますが、実際は日進月歩、おもしろくなっている。いつしか新しいクリエーションを生み出すシェフが登場し、評価されていく。その繰り返しなんです。フランス人たちが何をおもしろいと感じるのか。日本の文化との融合や、技術をうまく表現できるパティシエになりたいと思いました」

 小さな気づきの積み重ねが、やがて大きな挑戦への道を切り開いていきました。フランス菓子への飽くなき探究心は、今も静かに燃え続けています。

(Miki D’Angelo Yamashita)

Miki D’Angelo Yamashita

コロンビア大学大学院国際政治学修士、パリ政治学院欧州政治学修士。新聞社にて、新聞記者、雑誌編集記者、書籍編集として勤務。外信部、ニューヨーク支局、パリ支局、文化部、書籍編集部、週刊誌にて、国際情勢、文化一般を取材執筆。