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震災をきっかけに始まった高知県でのワインづくり 異業種の農薬メーカーが世界で認められる味になるまで

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

井上ワイナリー・のいち醸造所の所長で醸造責任者の梶原英正さん【写真提供:井上ワイナリー】
井上ワイナリー・のいち醸造所の所長で醸造責任者の梶原英正さん【写真提供:井上ワイナリー】

 ワインといえばヨーロッパや南半球が名産地として有名ですが、近年は国産ワインの品質の高さも知られるようになってきました。高知県香南市でオリジナリティあふれるワインをつくる「井上ワイナリー」は、石灰を原料とする製品を製造・販売する会社が興した醸造所です。一見あまり関わりがなさそうな会社がつくるワインは今、本場・フランスでも高い評価を受けています。ワインづくりに挑戦するきっかけや思いを伺いました。

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地元資源を生かしたワインづくりへの挑戦

 高知市内から車で約30分、高知竜馬空港近くの丘の上に建つ井上ワイナリー。ショップを兼ねた店内からは、銀色の醸造用タンクが見えます。

 シャルドネやアルバリーニョといったヨーロッパ系品種に加えて、マスカット・ベーリーAや甲州、山ブドウなど日本の品種を使ったもの、地元産温州ミカンの「山北みかん」を使ったワインも並んでいます。

「現在は約3万本を醸造しています。東京や大阪で置いていただいている店もありますが、販売の8割は高知県内の飲食店ですね」

 そう説明してくれるのは、井上ワイナリー・のいち醸造所の所長で醸造責任者の梶原英正さんです。

 同ワイナリーは、2012年に最初の畑を開拓。山梨県のワイナリーに委託醸造した約600本のワインからスタートし、2016年4月に法人化すると、2022年からは自社ワイナリーでの醸造と販売が始まりました。

 母体となる「井上石灰工業」(高知県南国市)は1884年、和暦でいえば明治17年に創業された、歴史ある会社です。高知県で良質な石灰がとれることから、化学工業製品や建築資材などの製造販売をしています。ワインとは縁がなさそうにも思えますが、実は同社の製品「ICボルドー液」は、日本のワインブドウ生産者の使用率約8割を誇る農薬で、東南アジアなどを中心に海外でも広く使用されています。

 農薬と聞くとドキッとする人もいるかもしれませんが、ボルドー液はフランスのボルドー地方で100年以上前に開発された薬剤で、硫酸銅と消石灰を混ぜたものです。殺菌効果が高く、とくにブドウ栽培には欠かせない薬剤として知られており、農林水産省から「有機農法」として表示することが許されています。