仕事・人生
マドンナ、マイケル・ジャクソンも虜に―世界のセレブを魅了した日本料理人 30年の軌跡
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スカウトされイギリス・ロンドンの日本料理店へ
そんな頃、オランダで働いていたときの総料理長を監修にして店を作るため「ロンドンに来ませんか」と声がかかります。同時に日本の企業からも「店をやらないか」というオファーがあり、悩んだ末、条件の良かったロンドンでの仕事に挑戦することにしました。
「(客層は)日本人駐在員がメインですが、イギリス人のビジネスマンも多かったですね。当時、出張で日本に行った経験がある人も多く、食べ慣れていました。一番大変だったのは魚介類。築地と比べたら食材は“月とすっぽん”。処理の仕方に日本の漁師さんとの差があり、クオリティも低い。舌の肥えたお客様にどんな工夫をして料理を作るか、そこで学んだことが今も役立っています」
ロンドンでの滞在が9年を迎え、そろそろ帰国をと考えていた頃、思いがけない転機が訪れます。日本人シェフ・松久信幸氏がオーナーを務め、世界展開を進めていたレストラン「NOBU」がロンドンに新規オープン。その料理長としてスカウトされ、ロンドンにとどまることになりました。セレブ御用達として知られる「NOBU」では、真田広之さんや黒柳徹子さんといった著名人たちが常連となり、自然と親交も深まっていったそうです。
「NOBU」本店はアメリカ・ロサンゼルス。ニューヨーク店は、ロバート・デ・ニーロらとの共同経営です。1990年代、「NOBU」は世界中に店舗を広げている時期で、ヨーロッパにおいては五月女さんがこのロンドン店をはじめ、ミラノ店やパリ店の立ち上げに尽力。軌道に乗せた立役者です。当初は日本人の駐在員を主なターゲットにしていましたが、やがて来店客の8割を世界各国からのゲストが占めるようになり、料理やサービスのあり方にも発想の転換が求められるようになったといいます。
今まで経験のない「NOBU」式日本料理を学ぶ
「『NOBU』には世界統一のオリジナルメニューがあり、経験したことがない料理を作ることができておもしろかったですね。たとえば『ニュースタイルお刺身』。サーモンを薄めに切って、ニンニク、ショウガの千切りなどをのせ、オリーブオイルと風味づけのゴマ油を200度ぐらいの煙が出るぐらい温度に上げて、じゅっとかける。そうすると、表面だけに油で火が入り、半生のお刺身になります。
『海外のお客様に、刺身はどうしても残されてしまう。それが悔しい』と考えたのがあぶり。生ではなく、ちょっとでも火が入っていると外国人も食べやすいのではないか。そんなメニューを編み出して、世界で日本料理を流行らせた『NOBU』の功績は大きいですね」
「NOBU」の顧客には、そうそうたる名が挙がります。ポール・マッカートニー、プリンス、ジュリア・ロバーツ、マドンナ、マイケル・ジャクソンと、超スーパースターばかり。
「彼らの希望する料理からインスピレーションを得て、自分なりにアレンジできたことで、新しい料理を生み出していけたのは貴重な経験でした」