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仕事・人生

マドンナ、マイケル・ジャクソンも虜に―世界のセレブを魅了した日本料理人 30年の軌跡

公開日:  /  更新日:

著者:Miki D'Angelo Yamashita

めぐり合わせなのか、次は香港へ

 2010年、ヨーロッパ滞在10年の節目に帰国。紹介制の店で仕事をすることになり、日本に落ち着こうと思っていた矢先、香港からプライベートジェットで食事に来る常連に、香港で店を出さないかと毎回熱心に誘われることになります。

「日本に帰ってまだ1年。そういうめぐり合わせなのかと諦め、2年か3年なら行ってもいいと契約しました。条件が良かったんです。食材は毎日、日本から入るし、値段に糸目をつけない富豪が日本のクオリティを求めて、香港だけでなくシンガポール、中国本土からも訪れる。アリババ創業者で中国を代表する実業家のジャック・マーから、中国の国家主席まで、半端ないVIPばかり。1年でミシュラン星付きになり、当初3年の予定が、10年も滞在することになりました」

 美食家のリクエストに応じて、オリジナリティを発揮。悩みながらもミシュランの星を10年守り続け、楽しい料理人人生を送ります。

「香港のお客様から、スープ以外でフカヒレ料理を何か作ってくれと頼まれました。それで考えたのが、スペシャリテで、日本の割烹店で今の一番人気になった『揚げフカヒレ』です」

政情不安な香港から帰国するもコロナ禍に

 そんな充実した日々を送るなか、10年ひと区切りでそろそろ帰ろうかと考えていたとき、香港のデモが激しくなり、警察との衝突も頻繁になってきました。店から出た途端に催涙弾を浴びて、身の危険を感じることもしばしば。

「これは帰らなければ、何が起こるかわからない」と、2019年に帰国します。

 ところが、帰国した途端、待ち受けていたのはコロナ禍でした。そのなかで、こぢんまりと店をやりたいと、寿司店をイメージに物件を探しました。

 寿司の名店は、西麻布周辺に軒を連ねています。いままで培ってきた“五月女スタイル”をコンセプトにすればいいとアドバイスを受け、創作割烹店「西麻布 さおとめ」を、コロナ禍の真っ只中にオープン。

「しばらく予約ゼロでしたけど、一応店は開けていました。2021年3月くらいまでは暇でしたね」

 コロナ禍が落ち着いてくると、かねてからの常連さんなどが徐々に来店し、なんとか店を安定させることができるようになったそうです。傍から見ると、料理人冥利に尽きる幸せな人生。世界の舞台で鍛えた感性と経験が今、東京・西麻布で結実しています。

(Miki D’Angelo Yamashita)

Miki D’Angelo Yamashita

コロンビア大学大学院国際政治学修士、パリ政治学院欧州政治学修士。新聞社にて、新聞記者、雑誌編集記者、書籍編集として勤務。外信部、ニューヨーク支局、パリ支局、文化部、書籍編集部、週刊誌にて、国際情勢、文化一般を取材執筆。