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「お山のような人になりたい」 日本でも屈指の難ルート・妙義山縦走を果たした女性山伏の夢

公開日:  /  更新日:

著者:浅倉 彩

いつかお山になりたい

季節や時刻、見上げる人の心持ちによって、さまざまな表情を見せる妙義山【写真提供:片山文恵】
季節や時刻、見上げる人の心持ちによって、さまざまな表情を見せる妙義山【写真提供:片山文恵】

――これからのことを教えてください。

 妙義で自分の宿を開く準備を進めています。目指すのは、大学生のときに出合ったあのお宿みたいな、疲れていたり、頑張りすぎていてそのことにすら気づいていなかったりする人が、ホッと本来の呼吸ができるような場所。そして、修験道や山岳信仰、妙義山に興味のある人が、祈りとともに滞在できる場所です。

 そして、さらにその先の私の夢は、「お山になること」です。お山って常にどしんとそこにいてくれて、揺るがなくて、太古の昔から私たちに無償の恵みを与え続けてくれている存在。お水がこんこんと湧いているし、春になったら山菜がとれたり、とる人によっては獣がとれたり、お山に沈む夕日に心打たれたり。

 常に私たちに「どうぞ」って、おいしいでしょう、美しいでしょう、持って帰りなさい、いらないものは置いていきなさいって、いろんなものを与えてくださるし、なんでも受け止めてくださる。ときには、厳しくて怖いこともありますけど、たとえ雨嵐の日にお山へ入っても、必ず何かしら美しいものに出合いますし、入ってくるものがあるんです。

 それなのに、「やってやったやろ」っていう人間みたいな自我がまったくない。ありのまま、ただそこにあって、静かに朽ちていく。だからみんなお山に癒やされるのだろうなと思いますし、手を合わせたくなるんだなと思います。そんなお山に憧れるんです。私は将来、宿に行くといつもいる、なぜだか会うと元気になる、みんなのおばあちゃんみたいな、お山みたいな人になりたいんです。

―ー生きている限り修行を続ける山伏と、お客さんを迎え続ける女将。一見、二足のわらじを履いているようにも見える片山さんの生き方は、「誰かの幸せを願うことが、やがて自分の納得につながる」という修験道の価値観によって、ひとつに結ばれているように感じられました。自分自身の願望や悩みから離れ、誰かの幸せに目を向けたり、祈ったりする別のチャンネルを持つことで、より良く生きられるのかもしれませんね。

(浅倉 彩)