国内ニュース
トラウマ児童文学や直木賞作品も プロの文筆家がおすすめする「親子で読みたい本」3選
公開日: / 更新日:
児童文学に親もドキリ コロナ禍の今、読んでおきたい作品
○「おとうさんがいっぱい」三田村信行・著(理論社)
児童文学です。楽しいと同時に、ドキリとするお話です。トラウマ児童文学として有名で、子どもの頃に読んだ人たちの強い要望もあって復刊されました。
ある日、お父さんが3人に増えます。どのお父さんも、自分も本物だと言って、区別が付きません。主人公の少年が、どのお父さんを残すか決めることになります。他のお父さんは政府に処分されてしまいます。かわいそうだけど、仕方ありません。
これで解決したと安心していたら、今度は少年の方が何人にも増えて……。
選ぶ側の時は仕方ないと思えたことが、選ばれる側に立った時には受け入れがたいということが、理屈ではなく実感として分かります。“コロナ差別”などが起きている今、ぜひ親子で読んでおきたい作品です。
お父さんと一緒に読むと、お互い、複雑な気持ちになるかもしれませんが。
スイカのプールで泳いでみたい 幅広い年代で楽しめる絵本
○「すいかのプール」アンニョン・タル・著 斎藤真理子・訳(岩波書店)
絵本ですが、幼い子どもだけでなく、小学校高学年でも、大人でも楽しめます。
スイカで泳ぎたいと思ったことがありますか? 「えっ? 何のこと?」と思う人が多いでしょう。私もそうでした。でも、この絵本を読むと、スイカのプールで泳いでみたくて仕方なくなります!
スイカのプールが存在する世界で、そのプールで泳ぐ話です。夏にはもってこいです。スイカのプールにさくさくと歩いて入る感じ、種を抜いた後の穴にすっぽり収まって気持ちいいとか、スイカ好きなら、たまらない楽しさでしょう。
絵本だからこそできる、想像力の飛躍、絵の力、言葉の力、それらが結集した名作です。読み終わった後、ぜひ親子で一緒にスイカを食べていただきたいです。ひと味もふた味も違うはず。
以上、夏の扉を開けるつもりで、表紙を開いていただきたい3冊の本です。
親子で読んで、ぜひ感想を語り合っていただきたいです。ただ、その時、お子さんがどんなにおかしな感想を言っても、どうか否定しないであげてください。
私も子どもの頃、父と一緒に本を読んで、今思うと、ずいぶんとんちんかんな感想を言っていました。今の私だったら、呆れて「全然分かってないじゃないか! そうじゃなくて……」と言ってしまいそうです。
しかし、父は否定せず「そう思うんだったら、じゃあ、弘樹がいつか、それを論文に書くといいよ」と言ってくれました。論文は大げさだと思いましたが、うれしかったものです。
もし、すぐに否定されていたら、読書への興味を失っていたかもしれません。私が今、こうして文章を書く仕事をできているのは、父が否定せずにいてくれたおかげだと、今も感謝しています。
(頭木 弘樹)