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ロッテ美馬投手の妻アンナさん 先天性欠損症の我が子と歩む日々 「この子じゃないとダメだった」
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産院の院長先生から渡された、同じ境遇だった大リーガーの本
ミニっちが生まれて間もない頃、産院で絶望にも似た想いにとらわれていたアンナさんは、何度も「この子は野球ができない」と考えたそうです。「生まれる前から男の子だって分かっていたので、旦那さんはやっぱり野球をやらせたかったんだろうな、申し訳ないなって思っていました」。そんなアンナさんの心を見透かした産院の院長先生がご夫婦を呼び、ある本を手渡してくれました。
「院長先生に言われたんです。『心配していることは分かってるよ。野球でしょ?』って。その時、スッと差し出してくださったのが『奇跡の隻腕 ジム・アボット物語』という本だったんです」
ジム・アボット氏は1990年代のメジャーリーグで活躍したピッチャーでした。アマチュア時代にはソウル五輪に出場し、金メダルを獲得。メジャーでも263試合に投げて87勝を記録し、1993年にはノーヒットノーランまで達成した名投手です。ただ、彼はミニっちと同じく、先天性欠損症のため右手首から先がありませんでした。それでも、巧みにグラブを持ち替えて、左手のみで投球、捕球、送球をこなし、健常者も届かない功績を残した伝説の人です。
院長先生がくれた1冊の本をきっかけにご夫婦は、アボット氏のことはもちろん、障がい者野球についても時間が許す限り、調べたそうです。障がいを持つ子どもたちが野球を楽しむ動画を見た旦那さんは、プロ野球選手ながら「え、俺よりコントロールいいかも」「俺よりうまい……」と、驚きのあまり言葉が出なかったとか。器用に野球をする子どもたちの姿に、アンナさんもまた「すごく勇気をもらったし、こんなにできることがいっぱいあるんだ、と思えるようになりました」と、新たな視点を手に入れたそうです。
「正直今まで私も、障がいを持って生まれてきた人を見ると『かわいそう』と思っていました。ミニっちが生まれてからも『あれもできない、これもできない』と思っていたけど、障がいを持ちながら野球をする子どもたちの姿を見てから『これ、できるんじゃないかな?』という視点で考えるようになったんです。
旦那さんも、五体満足で野球ができていることが、実は当たり前じゃないということに気付いて、今までとは違った思いを持って野球に取り組むようになったと言っています。私たちの変化って、ミニっちがいなければなかったこと。これって、すごくいいことだなって思うんですよね」
同時に感じるようになったのが、「障がいを持った子どもを授かった自分たちには、何か使命のようなものがあるんじゃないか」ということ。旦那さんがプレーする野球、そしてスポーツを通じて、障がいをもつ子どもたちと家族が毎日笑顔で過ごせるきっかけ作りができるのでは──。この想いが湧いてくると、アンナさんの心にもポッと明かりが灯り、視界が開けたように感じたといいます。
(続く)※第2回は11月29日に掲載予定です。
(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)