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エリザベス女王とサッチャー氏はホントに対立していたの? 「ザ・クラウン」をもっと楽しむ基礎知識

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

伝記本作者「女王がサッチャー氏に失礼だったという考えは信じられない」

 一方で英大衆紙「デイリー・メール」は今年12月、2013~19年に全3巻のサッチャー氏公認伝記本を出版したチャールズ・ムーア氏による見解を記事にしました。同氏はまず、サッチャー氏を演じた米女優ジリアン・アンダーソンの演技は見事であると高く評価。特別な背景もなく政界入りしたことの困難さを通じ、次第に築かれた「信じられないほどの決意と真剣さ」を巧みに表現していると述べています。ですが一方で、ドラマ自体はサッチャー氏の人間性をとらえていないと批判的です。

 女王との関係については、バルモラル城に招かれたサッチャー夫妻が上級階級との交流に不慣れな様が描かれるシーズン4の2話を指して「女王がサッチャー氏に失礼だったという考えは信じられない。また、サッチャー氏が女王に失礼だという考えも信じられない」と明言。サッチャー氏の服装に関するものなど、描かれたディテールは間違っているとしました。

 また、フォークランド紛争時などで2人の間に不協和音があったとするドラマの解釈にも異議を唱え、女王は非政治的な人物であり「女王が政治的見解を推し進めようとしていたとの考えはまったく間違っている」と述べています。いわく、女王が行う唯一のこととは「平和と団結の考えを推し進めること」であり、時折大きな紛争に悩まされてはいましたが、「それはサッチャー氏の政策に反対していたという意味ではない」そうです。

 ただし、バルモラル城を描いたシーズン4の2話については「夫妻が知らない世界に入ったという1つの側面をとらえている。非常に異なった世界であり、彼らは落ち着かなかった。そして、廷臣の何人かは彼らを笑っていた」として、夫妻が覚えていた違和感の存在を認めています。また、女王に対してサッチャー氏が深く膝を折るお辞儀についても、事実であるとしました。

エリザベス女王はサッチャー氏の首相退任後も交流を継続

「インディペンデント」紙の記事に戻ると、南アフリカをめぐる緊張関係があったにもかかわらず、保守党元閣僚の一部は、サッチャー氏が20世紀の英首相として最長の在任期間となった際に、女王が寄せる尊敬は高まったと考えているそうです。

 また、1990年の首相辞任時は政権内部から裏切られた末に“追い出される”形となったため、ひどい扱いであると感じた女王がサッチャー氏を競馬の大会に招待したエピソードも書かれています。サッチャー氏の友人は後年、同氏は招待を受ける気がなかったものの、気遣いにはとても喜んでいたと話したそうです。

 さらに女王は、サッチャー氏に対する勲章の授与を決め、その後もサッチャー氏のバースデーパーティーに数回出席。さらにサッチャー氏の葬儀にも参列しました。女王は1926年生まれ、サッチャー氏は1925年生まれ。意見の違いはあったものの、英国を愛する同年代の女性として、やはり通じるものは存在していたと考えられます。

 表面上で仲良くすることだけが信頼関係を示すものではありません。お互い“トップ”という立場ゆえに「譲れない」部分があったからこそ、時として緊張関係が生まれたと推測できます。それは2人がいつも真剣に、全身全霊で英国の現在と未来を考えていた証でもあるのでしょう。

(Hint-Pot編集部)