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美馬アンナさん 先天性欠損症の長男が「腕を隠すことはあり得ない」 パラ競泳・一ノ瀬メイ選手との対談で示した覚悟

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

「自分を愛することができれば、他人にも優しくなれるんじゃないかって」

メイ:絶対それがいいと思う! やっぱり息子さんはアンナさんと旦那さんを選んで生まれてきたんやろな。そう思う。

アンナ:「この家族だったら、この両親だったら楽しく生きられるかもしれないって思って生まれてきたんじゃないの?」って、本当にいろいろな人に言われるんですよ。もしそうだったらうれしいなって思うと同時に、自分もそれに恥じないような人生を送っていきたいと思いますね。こういう風に思わせてくれたきっかけは、一ノ瀬選手だったので。

メイ:もう一ノ瀬選手じゃなくて、メイちゃんって呼んでください(笑)。

アンナ:じゃあ、私もアンちゃんで(笑)。でも、本当にこう思えているのは、息子がこの世に生まれる前から発信してくれていたメイちゃんたちのおかげ。これは感謝でしかないし、これからもどんどん発信していってほしいですね。

――こうやって発信し続けてきたメッセージが誰かに伝わっていることが分かると、新しい活力や勇気につながりそうですね。

メイ:むっちゃなりますね。最近はSNSで誰とでもつながれるから、障害を持つ子どもの親御さんからダイレクトメッセージをいただくことが多くて「発信してきて良かった」って思う機会が本当に多いんです。コロナで“おうち時間”を過ごしている時、何かできることはないかなって思って「どういうことが気になりますか?」って質問を募集したんですね。そしたら「髪の毛はどうやってくくっていますか?」「どうやって靴紐を結んでいますか?」って質問が来たので、それを動画に撮ってインスタに載せたら、片腕が短かったり指が少ないお子さんが髪の毛をくくれるようになったよっていう報告や、靴紐を結んだりする動画を親御さんが送ってくれて。水泳だけじゃなくて、自分が人としてできることもあるなって気付かせてもらったのがうれしいし、自分も何かを与えてもらっている気持ちになりましたね。

アンナ:私もそうですけど、息子もこれから大きくなる中でいろいろな希望が必要だと思うんですね。息子が生まれてきた時に私たち親の気が動転したのはリアルな話で、もちろん心配もあります。だから、私たち親にも希望は必要。別に障害を持つ持たないに関係なく、生きていく中でみんなに希望って必要だと思うんです。私はメイちゃんの発信から希望をもらったし、これから自分が発信することで誰かの希望になればいいなと。自分たちの気持ちがどんどん未来につながるリレーのような形になるといいですよね。

――一ノ瀬選手の発信には、障害のあるなしにかかわらず、1人の人間としての潔さやかっこよさ、そしてパワーがあります。

アンナ:メイちゃんの言葉に助けられている人は本当にたくさんいると思います。自分の悩みがちっぽけに感じるくらい、芯がありますよね。伝えたいメッセージはとてもシンプル。ただ、社会が問題を複雑にしすぎているような気がします。

メイ:そうそう。そんなに難しくないのに、みんなが難しくしたがっていると思います。みんな生まれてきた時はピュアでシンプルなのに、知らない間に思い込みや先入観が付いてしまう。みんな見ている世界は一緒なのに、色眼鏡をかけて見てしまっているんですよね。例えば、障害者に対する考え方も、赤ちゃんは「障害者」なんて考えたこともないのに、育っていく中で経験した情報によって、変なレンズを通すようになってしまったんじゃないかって。まずは、自分がどういう色眼鏡やレンズを通して世界を見ているのか気付かなきゃいけないし、気付いたらレンズ1枚1枚と向き合って、外そうか、変えようか、考えることが大事。みんな元々、生まれた瞬間から十分でパーフェクトな存在なんやから、付着したレンズを外していくことで本来の自分に戻っていくことが必要なのかなって思います。

アンナ:生まれた後に付いたレンズだから、外すことはできるはずですよね。

メイ:いらないものが付きすぎているから、みんな難しく考えようとするんだと思うんですよね。それを一つひとつ取り外す作業をするには自分を知る必要があるし、自分を知った先に自分を好きになる、愛することができるようになれば、他人に優しくなれるんじゃないかって。ナルシストとか、そういうことじゃなくて、自分を愛せる、認められる人って他人にも愛を分けられると思うんですよ。今、誹謗中傷とかいろいろな問題があるけど、それも自分に満足できていないから起こるのかなって。自分の中に優しさ、思いやり、感謝、愛がないと、人にもそれをあげることはできないから、結局はみんなが自分と向き合って、自分を大切にすることが大事なんだと思います。

アンナ:自分を大事にするって、日常忙しく生きているとなかなかできないこと。でも、ふと気付いた瞬間に自分のことをちゃんと見られていなかったなとか、ないがしろにしていたなって感じることもあるので、「自分を大事にする」っていうキーワードは家族や周りの人のためにも大切ですね。息子にも自分を大事にしていってほしいし、しっかり自分を表現できる人になってほしいと願っているので、そのためにも親である私たち自身がそういう生き方を見せていきたいなって感じます。