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美馬アンナさん 先天性欠損症の長男が「腕を隠すことはあり得ない」 パラ競泳・一ノ瀬メイ選手との対談で示した覚悟
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「自分が救われた分、自分も他の人のきっかけになれれば」
――一ノ瀬選手は自分を大切にしようと思うきっかけがあったのですか。
メイ:あります。初めてパラリンピックに出場したリオデジャネイロの時、本番の1年くらい前からメディアでは「メダル候補」って言われていたんですけど、実際の世界ランキングは13番目くらい。メダルは3番までしかもらえないのに、周りが期待する自分と実際の自分にすごく差があって、ずっと焦っていたんです。どれだけ頑張っても、みんなの考える自分にたどり着けない。何を達成しても敷かれたレールの上を歩いているだけな気がして、自分はどれだけ頑張っても十分じゃない、メダルを獲れないと幸せになれないんだって考えてしまって。人がどう思うのか、人の期待に応えるために何をすればいいのか、そんな風に常に矢印が外を向いていたんです。
でも、リオでスタート台に立った時に気付いたんです。今までこんなに周りを気にしてきたのに、最後は誰も助けてくれへんし、1人なんやって。最後は自分のために自分が何とかしないといけないんだって思った時、一番大事にすべき人って自分だったんだなって気付きました。そこから、もっと普段から自分にフォーカスを合わせて、自分が自分を誇りに思うために何をしていけばいいんだろうって考えるようになりました。
――外に向いていた意識の矢印が、内に向くようになったんですね。
メイ:そうですね。いい意味で周りがどう思っているとか気にしてないし、それは自分が自分に満足して納得しているから。私、最近アーユルヴェーダやヨガの指導者になる勉強をしていて、その中で「自信」っていう言葉は「自分との信頼関係」だって教えてもらったんです。初めて聞いた時、すごくびっくりしました。だって「自信」ってがむしゃらに自分を信じることだったり、根拠もなく自分を信じることだと思っていたから。でも、そうじゃなくて自分と自分の信頼関係だって聞いて、ハッとしたんですよね。
例えば、ダイエットを明日からしようって考えた時、毎日実行していけば、そこには信頼関係が生まれるから自信につながる。でも、自分で決めたことをやったりやらなかったりでは、信頼関係はボロボロになってしまう。あと、自分を否定するような言葉をかけるのも良くないですね。私、誰かに褒めてもらっても「いや、私はまだまだです」って返事をしていたんです。でも、自分を認めてくれない人とは信頼関係は生まれない。そうじゃなくて「今日はこんな風に頑張ったね」って声をかけたり、自分が決めたことをやり通したりすることで、信頼関係、つまり自信が生まれる。この考えが私の中でもしっくり来て「自分が一番大事なんだな」って思うようになりました。
アンナ:メイちゃんの話を聞いていると、同じアスリートだからか、うちの主人の考え方とつながるところがある気がしますね。主人もいい意味で周りを全然気にしない人なんです。私は弱いところがあって、息子の手をジロジロ見る人がいると、ちょっとくよくよしちゃう時がある。そうすると「じゃ、その人に明日も会うわけ? 二度と会わないんだから気にしなくていいじゃん」って(笑)。
メイ:かっこいいな(笑)。
――自分をしっかり持てるのは、自分との信頼関係が築けている証拠なのかもしれませんね。自信が持てれば優しくもなれるし、心に余裕も生まれます。
アンナ:余裕って大事ですよね。育児ノイローゼや産後うつも、自分に余裕がなくなれば、いつ降りかかってくるか分からない。でも、簡単には余裕を持てないから、誰かが「自分を大切にしましょう」って発信してくれることが大切ですよね。
――おふたりは発信ができる貴重な存在です。発信から生まれるつながりを次々とバトンタッチしていけば、想いは広がっていきます。
アンナ:自分が救われた分、自分も他の人のきっかけになることができればと思うので、いろいろな場所で発信していきたいですね。
メイ:全員に響かなくても、誰かのヒントになればいいなって思います。
<アンナさんとメイさんのお話はまだまだ! 第3回に続きます>
(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)