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先天性欠損症の子を持つ母2人が対談 美馬アンナさんが気付いた自身の「偏見」

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

子どもの誕生で気付かされた感謝「五体満足は当たり前じゃない」

浅原:子どもって面白いんですよ。親と一緒にいる時に「その手どうしたの?」って聞かれることがありますよね。その時に親がする答え方を、子どもは1人になった時にもするようになるんです。

アンナ:そうなんだ~! 親のマネをするっていうことですよね。

浅原:そうです。どんな子でもきっと自分でしっかり答えられるようになると思いますよ。私も先輩ママからいろいろ教えていただいた時は「本当に自分たちもそうなれるのかな」と思っていましたけど、今になると「あ、本当だった」って思うので。出産直後は「絶対なれない」と思っていたんですけど(笑)。

アンナ:出産直後は「みんな、どこからその元気が出てくるんだろう」って思いましたね。

浅原:それは子どもの成長が一番大きいですね。

アンナ:自分は当たり前のように五体満足で生まれてきて生活をしていたから、そこに対して改めて感謝をすることってなかったんですよね。だから、自分の息子に手がないと分かった時、「あれもできない、これもできない」って否定的な気持ちになってしまった。今では息子のおかげで、「当たり前だと思っていたことは当たり前じゃない」と知ることができたし、諦めないことだったり感謝だったり、生きていくために人として必要なことを小さな体に教えてもらったと思っています。

浅原:私も価値観というか考え方がすっかり変わりました。

アンナ:この年になって気付かせてもらうことができた私たちは、逆にラッキーなのかなって。五体満足が当たり前で生きていくことと、「当たり前じゃない」と感謝して生きていくことでは、まったく違うと思うんですよね。

浅原:出産直後に「遺伝科」というところに行ったことがあるんです。私は子どもが3人いて、右手が欠損して生まれてきたのは一番下の子。上の子も真ん中の子も、当たり前のように指が5本で生まれてきたんですね。

 すると遺伝科の先生から「お兄ちゃんもお姉ちゃんも5本指で生まれてきたから、それが当たり前だと思っていたでしょ。だけど、10人に1人は何らかしら違いを持って生まれている。そもそも完璧な遺伝子なんて、この世にないんですよ」と言われて、「あ、そうなんだ」と。その時、自分が持っていた偏見にも気付きました。

アンナ:確かに、自分の偏見に気付かされますよね。

浅原:最初から「できない」と思っていたなって。「人からジロジロ見られるんじゃないか」とか「小学校に行ったらいじめられるんじゃないか」といった心配は、偏見だと思うんですね、きっと。そういう気持ちが自分の中にあったことを、改めて知りました。

アンナ:まさしく。私も今まで障害を持っている方を見た時に、心のどこかで「かわいそうだな」って思う気持ちがあったと思います。その「かわいそう」と思うこと自体が、偏見につながっている気がして。私もそこに気付いて、息子のことを「かわいそう」って思っていた自分がなんか情けなくなっちゃったというか。

浅原:その気持ち、分かります。

アンナ:無意識のうちに自分の息子も差別して見ていたから「あれもできない、これもできない」って思っていたんですよね。「何を思われてもいい、何を言われてもいい」と思って生きていたはずなのに、「息子がかわいそうって思われるんじゃないか、手を出していたらジロジロ見られるんじゃないか」ということばかり気になっていた。「何か私、ブレブレだな」って今まであった自分の信念みたいなものがグッチャグチャに崩れて、「これじゃダメだな」と思ったのが今につながっていると思います。だから、浅原さんが今まで経験されてきたことを、私はこの1年ちょっとの期間、経験しているのかなって感じがします。

浅原:きっと、みんな通っていく道なんでしょうね。

 
<次回の中編ではアンナさんと浅原さんが「普通」について考えます>

◇浅原ゆき(あさはら・ゆき)
NPO法人「Hand&Foot」代表理事
2012年に右手の指が3本の娘「りっちゃん」を出産したことをきっかけにブログをスタート。全国にいる先天性四肢障害を持つ子どもの家族との交流をきっかけに、2013年に「Hand&Foot」を立ち上げた。2016年に絵本出版を目指してNPO法人化。現在では1000家族以上の会員とともに、どんな形の手足でもみんなが一緒に笑顔でいられる社会になるよう情報発信をするなど活動を続けている。
NPO法人「Hand&Foot」ウェブサイト:https://www.hand-and-foot.com

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)