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美馬アンナさんと学ぶ子ども用義手の現状 「逃げる子にはなってほしくない」

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

オンラインで対談した美馬アンナさんと義肢装具士の中村隆さん【写真:Hint-Pot編集部】
オンラインで対談した美馬アンナさんと義肢装具士の中村隆さん【写真:Hint-Pot編集部】

対談シリーズ第3回は国立障害者リハビリテーションセンターの中村隆さんが登場

 女優やタレントとして活動する美馬アンナさんは昨年から、スポーツを通じて健常者と障害者をつなぐ活動や、障害を持つ子どもの家族が意見交換・情報共有できる場所作りを始めようと動き始めました。そのきっかけは、2019年に授かった第1子となる男の子「ミニっち」の存在です。ミニっちは先天性欠損症のため右手首から先がありません。

 出産当初は絶望にも似た感情にとらわれていましたが、日々懸命に生きようとする我が子の姿に勇気をもらい、前を向いて未来へ歩き始める決意をしたアンナさん。プロ野球の千葉ロッテマリーンズで活躍する夫・美馬学(みま・まなぶ)投手のサポートもあり、さまざまなジャンルの方との対談を通じて知識や気付きを得ながら、目標実現に向けて歩んでいます。

 対談シリーズ第3回にご登場いただくのは、国立障害者リハビリテーションセンター(以下国リハ)で、義肢装具士として働く中村隆さんです。義肢装具士とは、医師の処方に従って義手や義足といった義肢が必要な人の採型や採寸を行い、義肢装具を製作して適合させる医療専門家。これまで先天的、後天的要因で義手や義足を求める数多くの人々と出会い、サポートしてこられました。

 シリーズ第1回でパラ水泳の一ノ瀬メイ選手と対談した際は「親の心理としては、息子に『義手なんていらない!』って生きてもらうのが理想」と話していたアンナさん。けれども、子どもにとって最良の選択ができるように、中村さんから義手の現状について学ぶことにしました。すると、予習の段階で目からウロコが落ちるような思いをしたそうです。

 3回にわたってお届けする中村さんとの対談。前編の今回は、義手は“手”なのかそれとも“道具”なのか、義手が持つメリット・デメリット、そして子どもの選択肢などについて話します。

 ◇ ◇ ◇

「困ったことはない」は「困るようなことをやっていない」とも考えられる

司会:今回は3月7日に国リハ主催で行われた「第2回義手オンラインミーティング」の様子を、アンナさんには“予習”としてご覧いただきました。そこでは一般的な義手のイメージとはまったく違う、とてもカラフルな子ども向けの義手や手先具が紹介されていて、イメージがかなり変わったようですね。

美馬アンナさん(以下アンナ):「進化している」という言葉が合っているか分からないんですけど“カラフルな道具”という感じで、あれだったら子どもたちも喜ぶでしょうね。

中村隆さん(以下中村):カラフルな手先具を使って、子どもたちが体操や鉄棒をする姿にびっくりされたんじゃないですか。世の中には少し古い考えが根強いですが、モノが進化し、価値観も変わってきた。だから、私たちも少しアクセルをふかして価値観を変えたいと思い、普及活動をしています。

アンナ:義手というと、どうしても少し物々しいイメージがあります。

中村:戦争で怪我をした人が使うイメージがまだ根強いので、マイナスなイメージになりがちだと思います。ただ、最近では電子部品やモーターが進化して、ロボットまではいきませんが義手もかなり進化しました。そう言うと皆さん、映画の『スター・ウォーズ』や『ターミネーター』の世界を想像すると思うんですけど(笑)。

アンナ:『アイアンマン』の世界を想像しました(笑)。

中村:昔、義手に携わっていた人たちは「鉄腕アトム」を作りたかったんです。私たちの世代は「ガンダム」を作りたかった。そういう人たちが研究開発しているので、機能的にはとても良くなって『スター・ウォーズ』や『ターミネーター』の世界に近付きつつあります。

 ただ、現実的には人間の手にはまだほど遠い。そこで手の形はしていなくても、特定のことができればいいんじゃないかという考え方が生まれました。こうして子どもの体操用、鉄棒用などカラフルなゴム製手先具ができたんです。

アンナ:そうだったんですね。

中村:最近、義手の世界ではお子さんに注目しています。というのも、今までやらなかったことに取り組む、チャレンジする子どもを育てたいんです。先天性形成不全で大人になって立派に活躍なさっている方はたくさんいますが、「形成不全でも困ったことはありません」と言う方が結構多い。確かにそうかもしれないけれど、裏を返すと「困るようなことをやっていない」とも考えられるんですね。

 なので、子どもの頃から「どうせできない」とトライせずに避けるのではなく、義手や手先具といった道具があると知ってもらえれば、子どもの未来や可能性が広がるのではないかと思うんですよ。やらずして諦めるよりは「やってダメだったら仕方ない」の方がずっといい。