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美馬アンナさんと学ぶ子ども用義手の現状 「逃げる子にはなってほしくない」
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意外と少ない子どもの義手に対応できる医療機関「施設と技術を広める活動を」
アンナ:何だか義手にはメリットしかないような気がしてきました……(笑)。
中村:デメリットは、人間の手を基準に考えると義手はパーフェクトではないので、できることとできないことがありますし、邪魔な時もあります。そして、最大の欠点は感覚がないことですね。義手をつけると手にフタをしてしまうようなものなので、実は義手をつけない方が感覚はとぎ澄まされます。
だから、義手をつけた動きとつけない動きと両方慣れておく方が良くて、子どもの場合は朝から晩まで義手をつけておかないといけないという考えではありません。大人の場合、一日中つけている人が多いのですが、社会との関わりの中で手がないと目立つので「どうしたの?」と聞かれて、何度も答えるのが面倒くさいからという人もいます(笑)。
後は、義手はプラスチック製なので汗で蒸れたり、夏は暑かったり、重かったり、モノとしての欠点もありますね。
アンナ:デメリットはあっても、子どもたちの可能性や選択肢を増やす魅力の方が大きそうです。
中村:そうですね。ただ、日本には子どもの義手に対応できる施設や義肢装具士がまだ少ないという残念な現状もあります。私がいる国リハ以外だと、兵庫県立総合リハビリテーションセンターが一番の老舗。東京大学医学部付属病院も熱心です。他には東京の心身障害児総合医療療育センター、名古屋の中部ろうさい病院、佐賀大学医学部附属病院など、国内では場所が限られてしまうので、全国に子どもの義手に対応できる施設と技術を広めようという活動をしています。
アンナ:お子さんが義手をつけてリハビリする姿をSNSなどで見かけることがあったので、対応できる施設は多いのかと思っていました。その点では海外の方が進んでいるんですか?
中村:義手研究が進んでいるのはどうしても先進国で、米国やドイツ、英国は日本よりはるか先に行っています。それ以外の国は、移動手段として必要な義足研究が主で、義手は後回しになることが多いですね。米国やドイツでは『スター・ウォーズ』の世界も目前ですが、1000万円、500万円と高価なため、一般に普及するかというと疑問です。スーパーカーより普通車を増やさないと。解決策の1つとして、3Dプリンターを使った義手製作も研究が進んでいます。
アンナ:親としては、値段も考えずにいられませんね。選択肢は与えたいけど、成長に合わせて義手を交換すると、どのくらいの金額がかかるのか……。実は、ある病院で「義手が必要なのが片手の場合は保険が下りません」と言われて、「えっ?」と思った経験があるんです。片手だろうが両手だろうがないものはなくて、どうしてそこで差別されるのかなって。
中村:似たような話をとてもよく聞きます(苦笑)。小児専門医はどうしても、心臓や内臓の奇形のようなヘビーな例に比べて、他の部分が健康なら「手が少し伸びていないだけ」と思いがちなんですね。でも、当事者にとってはまったく関係なくて、生きていくのに不便だから何とかしたい。そういう対応は変えていかないといけませんし、変わってくるはずです。
子どもの義手に関しては国が力を入れるようになりましたし、医療の現場からも「子どもに義手を与えても損はないし、選択肢が広がるだけだ」と訴えかけています。義手や手先具を使って元気に体操する子どもを見たら、「子どもに義手はいらない」とは誰も言いませんよね。
アンナ:言いませんね。「こんなことができる!」「あんなこともできる!」ってポジティブなことしか出てきません。「できる」という成功体験が積み重なると、子どもに自信も生まれるだろうし、もしかしたら義手によって、子どもたちの体だけじゃなくて、心も養われていくのかもしれませんね。
中村:それは大いにあると思います。私たちも義手を使う・使わない以前に、子どもたちの成長と発達を大事に考えています。だから、周りの環境によって「欠損」していると思わされ、心も萎縮してしまわないように、うまく義手を使っていけたらと考えています。
<中編に続く>
国立障害者リハビリテーションセンター 研究所 副義肢装具士長
大学時代は化学を専攻し、卒業後は一般企業に勤務。退職後に義肢装具士を目指し、資格獲得を目指して国立障害者リハビリテーションセンター学院に入学する。卒業後は同センター 研究所に就職し、義肢装具士として働きながらより良い義肢の研究・開発、子どもの義肢普及に努める。
国立障害者リハビリテーションセンター研究所・義肢装具技術研究部YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCLJCXm4yylnFjplj4TTJRDw
(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)