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美馬アンナさんと学ぶ子ども用義手の現状 「逃げる子にはなってほしくない」

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

中村さん「欠損という言葉は使わない。欠けてもいないし損もしていない」

アンナ:確かに、子どもが「やりたい」と言っても、親の立場から「危ないからやらせたくない」とトライさせないことも多いかもしれません。

中村:そうですね。先天性形成不全の場合、他に合併症などがなければ、お母さんのお腹の中で成長が止まってしまっただけなので、体の他の部分はしっかり骨や筋肉ができていて、使えば鍛えられるはずなんです。でも、例えば右腕が形成不全の場合、右だけを使わずにいると体のバランスが崩れて、背骨が側弯(そくわん)する可能性もある。だから、右腕も同じように使って、バランス良い体の成長を促すためにも、義手を使ってもらえればと思います。

アンナ:主人がお世話になっているアスレチックトレーナーさんにも「欠損している側を自然と使わなくなってしまうから、体のバランスを考えて、意識的に使った方がいいですよ」とアドバイスをいただきました。息子はまだ1歳半なので、何かを持たせたりとか押させたりとか、そのくらいしかできないんですけど、意識はするようにしています。

中村:国リハでも、子どもの訓練ではできるだけ両手を前に出して遊ばせるようにしています。

アンナ:今、息子と一緒にベビー体操に通っていて、鉄棒や跳び箱のクラスもあるのですが、まだ鉄棒のクラスには行ったことがないんです。どうやってやらせたらいいのかという不安が私にあって……。ただ、今お話を伺っていて、義手や義足を活用することで親が持つ不安も減少するのかなと感じました。

中村:そういう効果もあるかもしれません。跳び箱とかなわとびとか、義手を与えると子どもたちはおのずと技を身につけて、不思議とできるようになっちゃうんです。周りの友達と一緒に遊んでいる時、自分だけできないのが悔しくて陰で練習することもあるみたいです。

アンナ:いいですね。反骨心も生まれるし、できたら本人も楽しいでしょうし。

中村:やっぱり、逃げる子にはなってほしくないじゃないですか。

アンナ:本当に! 逃げる子にならないためにはどうしたらいいか、常に考えている感じで。

中村:そのために“武器”を与えるんです。義手や手先具といった武器を(笑)。

アンナ:なるほど。武器やアクセサリーのような感じで、用途によって使い分けるのはいいですね。

中村:私たち義肢装具士の間で、以前は「失ったものを補う手を作るんだ」という価値観がありましたが、彼らが社会で負けずに戦うための武器の1つとして義手を与える。今はそういう感覚です。

アンナ:選択肢を増やすイメージですね。

中村:そうですね。ただ、海外で聞いた話では、ある年頃になるといったん義手を使わなくなる傾向にあります。理由の1つは、動きが遅いといった技術的な未熟さにあって、小学校高学年になると「なくても何とかなる」と思ったり、なくても何とかする知恵もついて使用頻度は減るといいます。ところが、中学、高校、大学と進むにつれて社会との関わりが増えてくる中で、手に求められるニーズが変わり、再び義手を使うようになったりするそうです。

 訓練して義手が使えるようになっても、使わない選択をする子どももいます。でも、訓練したプロセスはすごく大事で、必要とあらば将来また使うようになるかもしれない。そういった選択肢が増えたということは、日本が豊かになった証拠。昔は選択肢がなくて、みんな我慢していたわけですから。

アンナ:以前対談させていただいたパラ競泳の一ノ瀬メイ選手は今、トレーニングやヨガをする時に義手を使っているそうなのですが、子どもの頃に義手という選択肢がなかったとおっしゃっていました。だから、今の時代に生まれた私の息子は、プラスに変えられる選択肢がたくさんあって幸せだなって思います。

中村:ところで今、私たちは「欠損」という言葉は使わないんです。子どもたちにとっては生まれてきた姿が100%なので、欠けてもいないし、損もしていない。損だと思っているのは周りの大人だけで、環境が整っていないがために損をさせられているだけなんです。だから、「欠損」という言葉は使わずに、形を作ることがゴールまでいっていないだけなので「形成不全」と言っています。

アンナ:うわ~っ、確かにそうですね! 息子の手を説明するのに「欠損」と言った方が分かりやすいので、私も使っていました。

中村:事故で手を失った人はないことをマイナスだと感じ、義手を使ってゼロに戻そうとする。でも、ないことが当たり前で始まっている子どもの場合は、なくても大丈夫なんですね。一ノ瀬選手やパラ陸上の辻沙絵選手のように、走る時のバランスを整えたり、トレーニングのサポートとしてだったり、必要な時だけ義手を使う。つまり、彼らの能力を増幅させるもの。だから、同じ義手でも大人と子どもで少し意味は変わってきます。