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「義手は手ではなく、子どもの体と心を育てる道具」 美馬アンナさんが得た気付き
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体も心も成長をサポート「義手は子どもたちが社会に出て戦うための武器」
アンナ:考えないといけないことがたくさんありそうです。
中村:ただ結果的に言うと、何とかなる! 何とかさせる(笑)。
アンナ:そうかもしれませんね。今までも何とかなっています!(笑) ただ、自分にとっても初めての経験で、息子と一緒に一から学んでいる最中で。
中村:そうですよね。私たちも飛松先生から「子どもと一緒に親も鍛えなさい」と言われます。親もセラピストの1人なので、きちんと義手を理解し、私たちと同じ価値観を持つことが大切です。親が“義手は手だ”と勘違いすると、子どもが不幸になります。義手は生活の中で必要な時につければいい。親がそう思ってくれると、子どもは楽ですね。
アンナ:今まで義手は見た目を気にする人がつけるイメージで“リアルに活用する道具”という考えがなかったため、本当にイメージが変わりました。
中村:本当の義手は見かけだけではなく、体を支えたり、物を持ったり、力を伝えられたり、そういう機能を持っているもの。子どもたちが必要とする義手は、親や周りがイメージするものと違うかもしれません。そういう意味では私たちにも、「専門的で難しい話が多いから」とあまり世間に情報発信をしてこなかった反省点があります。発信しないと情報は伝わりませんから。
アンナ:発信することがどれだけ大事なのか、息子が生まれてから1年半、改めて感じています。私も他の方が発信してくれたことで救われたし、私のSNSにもたくさんの方が声を寄せてくれるので。
中村:美馬さんは今、ご自分の状況を把握することで精一杯かもしれませんが、ある程度整理できたらぜひ義手についても発信してください。お願いします。
アンナ:はい! 私、一ノ瀬メイ選手と対談した時は「義手を使わずに育てられたらいいな」と思っていました。お金もかかるし、「義手がなくても大丈夫!」という子どもを育てていけたらと思っていましたが、こうやってお話を聞いたり、毎日いろいろ学んだりすることで、少しずつ考え方が変わってきていると感じています。
中村:はっきり言えば、義手はなくても大丈夫。なくても生きていけるし、成功している人もたくさんいます。でも、もしかしたら義手があればもっと成功するかもしれない。だから、義手を使って成功する人を増やしたいと思っています。
アンナ:義手は「子どもたちが社会に出て戦うための武器」とおっしゃっていましたが、それは誰にとっても、どの立場の人にも必要なもの。私なら、歌を歌えることが武器になる。だから、そういうものを息子に与えられるなら与えてあげたいと思いました。
中村:テレビゲームで敵が出てきた時、自分が持っているアイテムの中からベストなものを選んで対応するでしょう。ああいう感覚ですよね。シチュエーションに合わせて、自分の特徴を生かす環境を作ったり、道具を使ったりすることは大事かなと思います。スポーツをする時でも、道具を変えながらいろいろなスポーツができれば楽しいじゃないですか。
アンナ:「これしかできない、あれしかできない」より「これもできる、あれもできる」の方が、子どもの体も心も育っていくでしょうね。
中村:義手や手先具といった道具があるだけで選択肢は増えるので、「その道具を使える環境をもっと増やしましょう」というのが私たちのスタンスです。
<後編に続く>
国立障害者リハビリテーションセンター 研究所 副義肢装具士長
大学時代は化学を専攻し、卒業後は一般企業に勤務。退職後に義肢装具士を目指し、資格獲得を目指して国立障害者リハビリテーションセンター学院に入学する。卒業後は同センター 研究所に就職し、義肢装具士として働きながらより良い義肢の研究・開発、子どもの義肢普及に努める。
国立障害者リハビリテーションセンター研究所・義肢装具技術研究部YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCLJCXm4yylnFjplj4TTJRDw
(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)