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JOC最年少20代理事へ 高橋成美さんが語る“失敗を失敗ととらえない”生き方

公開日:  /  更新日:

著者:坂本 俊夫

「これからの夢を抱いていい」 小学5年生の言葉で新たな挑戦を決意

引退後も柔軟性は変わらず【写真:山口比佐夫】
引退後も柔軟性は変わらず【写真:山口比佐夫】

 私は一生懸命いろいろなことに取り組めば、それがどこかでつながり、新しい大きなものができると信じています。

 大学では幅広く学べる総合政策学部を選び、スポーツビジネスに注力しようと思ったのですが、ある時、芸能に目覚めました。その引き金になった1つは、劇団四季の「キャッツ」を観たことです。

 舞台の上でみなさんが輝いている。「この人たちはこの舞台に立つまでどんな稽古をしてきたのだろう」と想像し、つらい稽古をして自分を高め、その成果として多くの人に楽しんでいただけるという環境をうらやましく思いました。

 また、映画などで表現している人たちを見ていると、なぜか「悔しい」という感情が起こることもありました。「それはなぜなんだろう、自分がやりたいからではないか」……そんな思いもあったんです。

 その頃までの私は、「自分にできることは何か」とそればかりを考えていました。変えてくれたのは、ある小学生の言葉です。日本オリンピック委員会(JOC)のアスリート委員として小中学校で授業をしていた時、小学5年生の子から「先生は将来何になりたいですか」と聞かれました。

 オリンピアンとして講師をしているのに、さらに夢? でもそこで、「ああ、私もまだこれからの夢を抱いていいんだ。ならば、できることではなく自分のやりたいことを見つけ、それに向かってつらくても頑張っていこう」と思えるようになりました。

 またある日、好きなサウナで汗を流しながら「自分がやりたいことは何か」と考えました。限界まで来て頭がボーっとした瞬間、「役者として芸能を究める人になりたい」と思ったんです。「キャッツ」を観た時のうらやましさや映画を観ていて起こる悔しさが、1つのはっきりとした思いになりました。

 そして、その次の日、たまたま松竹芸能の方と食事をする機会があり、「役者になりたい」という話をして今日に至っています。何か運命めいたものを感じました。

まずはやってみる 失敗を失敗ととらえない生き方

 芸能を究めたいと思ってすぐに始めたのがボイストレーニングです。体での表現はスケートのレッスンでやってきたのですが、発声や人に伝わる話し方の基本はできていませんでしたので、舞台俳優と声優をしている方に個人レッスンをしていただくことに。このレッスンでは、キャラクターの感情の付け方なども教えていただいています。

 また、アクションのワークショップにも通っています。相手の動きに対して自分の動きで返し、その中で互いの個性を融合させることが大切という部分はペア競技そのもの。ビンタでも肘鉄でもキックでも似たような経験をしていますから、当たったらどういう感覚になるのかわかっているので、本物のリアクションができます(笑)。そんな形で今は、自分を高めることに専念しているところです。

 私の夢は、主役ではないけれど「成美がいなかったらこの作品は成り立たないよね。成美が出ているから観よう」と思っていただける、個性的な役者になること。たとえば、ふせえりさんや近藤芳正さんのような役者です。太陽みたいに、自分が輝けば輝くほどみんなも輝くような温かい役者さんになれたらいいですね。

 また、英語と中国語もできるので、それも生かしていきたい。一方で、今もスケートのゲストコーチをしています。スケートからは一生離れられないと思っているので、日本の選手が頑張れる、より良い環境作りに尽力したいです。

 私のように、人生の途中で進むべき方向を考えなければならない時が皆さんにもあると思います。私は“失敗を失敗ととらえない生き方”をしてきました。その時は失敗でも、最終的に目標を達成すれば失敗したことになりません。

「失敗したらどうしよう」と考え込む前にまずやってみる。そして、失敗しても落ち込むことなく、「成功のための一歩なのだ」ととらえる。そんな風に、失敗を重く受け止めすぎないで少し気楽に生きつつ、定めたゴールを目指せばいいのではないでしょうか。そう考えれば、いろんなことに挑戦できると思います。

 
◇高橋成美(たかはし・なるみ)
1992年1月15日、千葉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。松竹芸能所属。日本オリンピック委員会(JOC)アスリート委員。3歳でフィギュアスケートを始め、ペア選手として活躍。2008年~2014年全日本選手権優勝、2010年NHK杯銀メダル、ジュニアグランプリファイナル優勝、世界ジュニア選手権銀メダル、2011年NHK杯銀メダル、世界ジュニア選手権銅メダル、2012年世界選手権銅メダル、世界国別対抗戦団体金メダル、2014年ソチ五輪出場、2017年全日本選手権準優勝。

 
◇「松竹 JAPAN GP GIRLS CONTEST」
高橋さんが所属する松竹芸能は、松竹エンタテインメントや松竹と合同でエンターテイメントの世界で活躍したい女性のオーディション「松竹 JAPAN GP GIRLS CONTEST」を実施する。対象は13歳~24歳(2022年4月1日現在)で特定のプロダクションに所属していない女性。募集ジャンルは女優・モデル・タレント・声優。エントリー期間は2021年6月1日~7月11日。書類審査は7月中旬。1次、2次、3次審査、ファイナルを経て決定。グランプリまたは特別賞受賞者には蜷川実花氏によるスチール写真撮影の他、松竹映画メインキャスト出演権や2023年「松竹カレンダー」出演権、松竹芸能もしくは松竹エンタテインメント所属契約権などが与えられる。

(坂本 俊夫)