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北欧雑貨と擬似家族 今時を表すキーワードが綴る人間ドラマ『青葉家のテーブル』

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

多くの人が胸の奥に秘めているだろう葛藤を描く

(c)2021 Kurashicom Inc.
(c)2021 Kurashicom Inc.

 クラシコムの社史には、「起業家として生きることを決めた兄と、何者にもなりきれずに悩み続けた妹。そんなふたりが、ついに出会った仕事が『北欧、暮らしの道具店』でした」と書かれている。

『青葉家のテーブル』はまさに年代の異なるそんな人々の物語。「自分とはなんなんだろう? 若いうちに、いや生きているうちに1つ何か光るものを見つけたい」と佐藤さんが語り、多くの人が胸の奥に秘めているだろう葛藤を描く。

 この作品の特徴に“恋愛メインに話が進まない”というものがある。もちろん恋愛感情は起きる。東京の美術予備校に通うため青葉家にやってきた優子に、春子の息子リクは淡い恋心を抱く。優子は予備校のライバルにときめく。でもそれが恋かどうかは分からない。恋を手探りするのと同時に、自分の未来を切り拓こうとして空回りするのを繰り返す。

 多くの人生でそうだと思うが、恋だけしている人はいない。日々を生き、何者かになりたい、何者かでありたいと思い、時に努力し、打ちひしがれ、誰かを呪い、八つ当たりし、また前を向く。

 そんな時、手を差し伸べるのは疑似家族を形成する“大人”たち。特に何を語るわけでもなく寄り添う。弱っている時に断定的なお説教などされようものなら、自然治癒しかけた心も炎症を起こしかねない。ごはんを提供する。そこにいることを肯定する。それだけ。子どもと大人が複数いることで、相互にも、そして子ども同士、大人同士も寄りかかり合える。

 人が複数いれば、そのコミュニティごとの問題も起きるだろう。それでも疑似家族が物語のモチーフとして取り上げられる理由は、シングルペアレントや一人暮らしが増えている状況でも社会の仕組みは変わらず、実際の暮らしと乖離しているからだ。私たちの暮らしには1人で解決できないことも多く存在する。それを共有し、互助できる存在や場所が欲しい。そう思うのは当然だろう。ドラマなどの舞台になるシェアハウスもそういう存在なのだと思う。