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カルチャー

北欧雑貨と擬似家族 今時を表すキーワードが綴る人間ドラマ『青葉家のテーブル』

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

勇気を持つことで再スタートできることを教えてくれる作品

(c)2021 Kurashicom Inc.
(c)2021 Kurashicom Inc.

 この作品のキーワードがもう1つ。“疎遠”だ。成長とともに疎遠になってしまった“関係性”を持つ大人たちと、そうなる前の子どもたちの物語を並行して描くことで、誰の人生にも起きる失敗と、それがリカバーできるものであることを届けようとしている。

 市川実和子が演じる知世は、地元の長野県上田市で中華ベースのオリジナル料理を出す大人気の飲食店「満福」を経営している。コーディネーターとしても活躍しており、国内外からも取材を受ける文化人だ。娘の優子はそんな母に気後れし、また自分の人生をプロデュースされることにも辟易。でもまだ自分の言葉を持てない高校生ゆえ、初対面の大人にはつい母親の話題を出してしまう。

 なりたいものが毎日変わる優子の考え方を「甘い」とする者の言うことも、「高校生ゆえに許される特権」だと思うことも、その時期を過ぎたからこそ分かること。当事者だった頃に俯瞰できる人はさほど多くないだろう。

 そんな優子の気持ちが、西田尚美の演じる春子にはよく分かる。評論的視点を持つ知世からあれこれ指摘されるのを疎ましく思ったことがあるからだ。そして優子が“夏期講習”という名目で知世から逃げたのと同様、自分も知世と一緒に進めていたことから“逃げた”という事実もある。

 悩む優子の問題にかこつけ、過去の自分の問題と向き合うため、上田に帰省し、知世に会う春子。きれいごとでは済まされない、ヒリッと身を焼くような痛みを感じる再会だが、勇気を持つことで再スタートできることを教えてくれる。

 春子を演じる西田尚美はこう言っている。「とても身近でほっとするところや、グッと来るところがあり、私が演じる青葉春子みたいに生きたいなと思う大好きな作品です」と。今年年初から放送された「にじいろカルテ」(2021・テレビ朝日系)でも、村の診療所を舞台にした作品で人間ドラマの軸になるような女性を演じていた西田尚美の存在感が活きる配役だ。

 最後になるが共同脚本と監督を務めた松本壮史にはこの夏、もう1本の公開作『サマーフィルムにのって』がある。まったく異なる青春映画だが、エモーショナルでナチュラルな映画を観たいと思う時には忘れないようにしたい名前だ。

 
『青葉家のテーブル』TOHOシネマズ日比谷ほか、全国順次公開中 配給:エレファントハウス(c)2021 Kurashicom Inc.

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。