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障害について知らないことが多い日本社会…美馬アンナさんがリハビリ科医と対談

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

カナダと日本におけるとらえ方の差 「障害の有無は年齢差くらいの感覚」

藤原さんの話に真剣に耳を傾けるアンナさん【写真:荒川祐史】
藤原さんの話に真剣に耳を傾けるアンナさん【写真:荒川祐史】

藤原:私たちは美馬さんのようなご家族とずっと向き合ってきました。ご家族がお子さんの障害を受け入れて変わっていく姿を見てきたと思っています。私は2012年から1年余り、カナダで義手に関する勉強をしたのですが、その時に感じたことの一つは、日本人が持つ障害像とカナダやアメリカ人が持つ障害像の差です。日本は島国で、周りとほぼ一緒という同調性に価値観を置いていることもあるかと思います。なので、自分とは違う障害を「異質」と見る人も多いかもしれません。

私が留学していたトロントは「人種のるつぼ」と呼ばれる街で、ロシア、韓国、日本などいろいろな国の人が集まるため“英語が話せなくて当たり前”という感覚。みんな違っていて当たり前なので、障害もその1つという温度感なんですね。

アンナ:それはすごいですね。

藤原:私が印象的だったのは、カナダには子ども専用テレビチャンネルがあって、そこに障害児が当たり前のように出演していたことです。例えば、車いすに乗った重度の脳性麻痺の男の子が登場して、自分の障害について説明する。「こんなこともできるんだよ。あんなこともできるんだよ。家ではこんなことをやっているよ」と紹介してくれる。こういう場面が全国放送で流れるので、それをテレビで見る子どもたちはきっと障害を特別なことだとは思わずに育つのでしょうね。

アンナ:子どもが夢中になる番組はありますから、そこで普通に紹介されると障害も普通のこととして受け止めるのでしょうね。

藤原:夏休みになると子どもたちが参加するキャンププログラムの中に、障害児のプログラムが当たり前のように入っています。肢体不自由の子どもたちに向けたものもあれば、発達障害児用のものもある。こういうプログラムが健常児用と同じように揃っています。

特別な配慮は不要で、誰でも参加できるプログラムもあって、保護者は夏休み前になると分厚いカタログのような冊子に向かい、どのプログラムを選ぼうかと考えるんです。地域のコミュニティ誌に掲載されるイベントやセミナーも同じ。障害の有無を年齢差くらいの感覚でとらえています。社会の障害に対するとらえ方の差が、本当に印象的でした。

アンナ:まったく違いますね。テレビ番組は伝え方が難しいとは思うのですが、子どもの障害をテーマにしたものでも心に響かないものもあって。子どもたちの様子があまり自然に見えないというか。私がうがった見方をしてしまっているのかもしれません……(苦笑)。

藤原:あからさまな感じがしてしまうんですかね。

アンナ:大人の目線が色濃くなってしまうのかもしれません。だからこそ、障害のある子どもが自分で障害について話す発想は、日本にはない気がしますね。

藤原:そうかもしれません。日本ではどうしても障害に対して否定的であったり、ネガティブなイメージを持ったりしがちです。確かに障害はない方がいいのだろうとは思います。でも、今話している私たちだって、明日事故に遭って怪我をしたり病気になったり、障害を負うかもしれない。

私は整形外科医として怪我が原因で障害を抱えることになった人を診たり、リハビリテーション科医として障害のある人を社会復帰させたりする中で、体の機能や形態などの障害は誰にでも起こりうることで、確率的にはゼロではないと強く感じています。そして、障害のある人を取り巻く環境が十分に整っていないため、社会活動が阻害されたり、障害者差別が生まれたりしてしまうのだろうと思います。「知らないから」なんですよね。