仕事・人生
障害について知らないことが多い日本社会…美馬アンナさんがリハビリ科医と対談
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ハビリスジャパン制作の絵本でポジティブな発信「こんなこともできる」
アンナ:そうですね。障害について知らないことが多いのでしょうね。私が息子と電車に乗っていた時、乗り合わせた方が「あら、かわいい」なんて言ってくださるのですが、右手の欠損に気付くと、「あれ、手はどうしたの? かわいそうね」と言われたりします。そこから電車を降りるまで「かわいそう」と連呼されて……。
藤原:決してかわいそうではないんですよね。
アンナ:「そうなんですよね〜」なんて耐えていますけど、心の中では「障害がある人を見てかわいそうだと思う人の方がかわいそうだ」と思っています(笑)。
でも、私も息子が生まれるまで周りに四肢欠損の人がいなかったので、障害児や障害者についてまったく知識がなかったし、違うと思っていました。そこで生まれてきた息子によって“自分が健常者であることを当たり前だと思って生きてきた”ことに気付かされたわけです。
以前、対談させていただいた国立障害者リハビリテーションセンターの中村(隆)さんは「子どもたちにとっては生まれてきた姿が100%なのだから手がなくても欠損ではない」とおっしゃっていました。きっと息子から見たら「ママの方が違うんじゃない?」となるかもしれない。健常であることをいかに当たり前に過ごしてきたか、息子が生まれてから1年半、ずっと考えさせられています。
藤原:そこにはマジョリティとマイノリティという視点があると思います。皆さん、子どもたちが健常な状態で生まれてくることを当たり前のように感じていらっしゃると思いますが、いかにそれが奇跡的なことなのか、私自身強く感じることがあります。障害を持つ子どもたちと当たり前のように接していると、「実はそちらが普通なのかもしれない」という感覚になることもあります。
アンナ:何が普通なのか、奥が深いですね。
藤原:私が理事を務めるハビリスジャパンでは今年、『いろんなおててとぼく』という絵本を制作しました。実際に義手を使っているお子さんをモデルに「義手って何?」「どうして義手をつけているの?」といった内容を、お子さんにも分かりやすく絵本にまとめています。これまでマイノリティであるがためにネガティブになりがちだった義手のイメージを変えようと、「こんなこともできる。あんなこともできる」とポジティブなメッセージを込めました。
アンナ:いいですね! 周りの大人たちや子どもたちが「知る」きっかけになってくれそうです。社会の理解が変われば、障害を持つ子どもたちは特別な存在ではなくなる。義手を使うことも日常にある選択肢の一つになるかもしれませんね。
<中編に続く>
東京大学医学部附属病院リハビリテーション科医師。中学・高校時代は体操競技に打ち込む。大学卒業後は整形外科医としてキャリアをスタート。国立障害者リハビリテーションセンター病院勤務時に障害者スポーツと出会い、2008年北京パラリンピック日本選手団帯同医を務める。12年にカナダへ留学し、子ども用の義手について学ぶ。帰国後は現職。16年には一般社団法人ハビリスジャパン設立に関わり、現在は理事を務めている。
(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)