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「奇跡」と「幼なじみ」で泣ける映画3選 毎年末に“全米が泣く“不朽の名作とは?
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奇跡は身近なところにくすぶっている…『カールじいさんの空飛ぶ家』
幼なじみと廃墟、そして奇跡といえばディズニー/ピクサーの『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)もそうだ。まだアニメーション部門がなかった米アカデミー賞の作品賞にノミネートされたことで知られる傑作でもある。
冒険家チャールズ・マンツに憧れる気弱な少年カールは、空き家を飛行船に見立てて舵を取る冒険好きの少女エリーに恋をする。マンツが怪鳥を発見した伝説の滝パラダイス・フォールに心奪われた2人は、いつか彼の地を訪ね、滝のそばにクラブハウスを建てることを約束。
結婚し、飛行船に見立てて遊んだ廃墟を買い取り、リフォームして長い歳月をともに生きるが、夢を果たせないままエリーは亡くなり、2人の家もいつしか都会の真ん中の“ちいさいおうち”状態に。立ち退きを迫られたカールは、家にたくさんの風船を付け、2人が夢見たパラダイス・フォールへと旅立つ。
この映画での奇跡は冒険に出ること。だから奇跡は早々に起きる。だが飛び立っても奇跡は簡単に着地できない。奇跡にも努力が必要だと描かれる。
そもそもカールが自分から行動を起こす姿はほとんど描かれない。キスもエリーからで、子どもの頃から活動的だったエリーが主導権を握っているように見える。そんなエリーにもきっと思い切って導いてほしい時もあっただろう。
カールはそれに気付くまでに時間がかかりすぎた。日々の生活に追われていたこともある。アカデミー賞にノミネートされた時、投票権を持つ多くが「己を見るようでハッとした」と語っていたのは印象的だった。
奇跡は身近なところにくすぶっている。だから手遅れにならないうちに行動しようという本作のテーマ。アニメーションなのに年を経た方がグッとくる不思議な作品だ。
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。