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ノーベル賞は“遠い世界の話”にあらず 身近な商品に応用されているTRPチャネルとは
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現地時間10日、スウェーデンで開催された2021年ノーベル賞の授賞式。日本では米プリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎氏ら3人の物理学賞受賞が話題を集めましたが、実は医学・生理学賞にも日本人研究者の富永真琴教授が関わっています。また、受賞対象となった研究実績はすでに、私たちが日常生活で使う身近な商品にも応用されているそう。そこで、富永教授と共同研究を行っている日本企業を直撃! 受賞で脚光を浴びた“五感とは別のセンサー”である「トリップチャネル」(以下TRPチャネル)について、商品開発の最前線から解説していただきました。
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身近な“感覚”に深く関連しているTRPチャネル研究
今年のノーベル医学・生理学賞は、米カリフォルニア大サンフランシスコ校のデヴィッド・ジュリアス教授と、米スクリプス研究所のアーデム・パタプティアン教授に授与されました。対象の研究は「温度と触覚の受容体の発見」。でも正直なところ、突然聞いても「一体何のことやら……」ですよね。
唐辛子が入った食べ物を口にした時、ヒリヒリするような痛みを感じたことはありませんか? アツアツの鍋料理やラーメンだと、辛さとともに痛みが増すことも。実のところ、両教授の研究はそんな身近な“感覚”に深く関連しているそうです。またすでに、研究はさまざまな商品に応用されています。
化粧品メーカー「株式会社マンダム」も、研究を応用した商品開発を手がける日本企業の一つ。そこで、同社の製品評価研究所 安全性・微生物評価室で研究員を務める高石雅之さんに、受賞した研究と実際の応用例についての解説をお願いしました。
「人間には外からの刺激を感知する五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触角)があることはよくご存じでしょう。今回ノーベル賞を受賞した『温度・触覚の受容体の発見』は、五感とはまた別の熱さや冷たさ、痛み、皮膚への圧力を感じる“センサー”を発見した研究に対するものです。実のところ、熱さと痛みの感覚はその仕組みが長らく不明だったんですよ」
熱いものを触った時に「あちっ!」と感じる“当たり前”の反応。それが謎に包まれていたとは驚きですね。具体的にはどういう仕組みなのでしょうか?
「受容体の一つとして、細胞にある感覚センサー『TRPチャネル』があります。このチャネルが外部刺激を電気信号に変換し、その信号が脳に伝わることで温度感覚が生まれるのです。さらにジュリアス教授は、唐辛子に含まれる成分『カプサイシン』に注目し、1997年には痛みと辛さを感じるセンサーが同じだということも発見しました」
ジュリアス教授が1997年に発見したセンサーは、TRPチャネルの一つで温度受容体の「TRPV1」。今回の受賞対象はこの発見を含む一連の研究です。しかし、ずいぶん前の発見も含まれているとは、少し意外かも?
「専門家の間では早くから『評価されるべき』の声が高かった研究なんです。そのため今回は『やっと受賞してくれた』という思いの研究者も多いのではないでしょうか」
世界中の研究から選び抜かれるノーベル賞。TRPチャネル研究はその“順番”を待ちながらも、実際の商品開発などにどんどん活用されていきました。