カルチャー
東京・浅草はなぜ魅力的なのか? ひばり映画や『浅草キッド』に刻まれたその姿とは
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80年代:浅草に生きる人々とは
○『異人たちとの夏』(1988)
大林宣彦監督が、この世のものではない人々とひと夏を過ごしたシナリオライターを描いた作品。感動と恐怖を味わうことができる。
かつて両親と住んでいた浅草を訪れた英雄(風間杜夫)は、雷門から浅草寺、橋を渡って奥山の方面へ歩いていく。かつて両親と食べたであろうウナギの「小柳」で精をつけ、手焼きせんべいの「日乃出煎餅」の職人たちを眺め、「浅草演芸ホール」で落語を楽しむ。
声をかけられ、顔を上げると、そこには12歳の時で死に別れた若き父親(片岡鶴太郎)の姿が。彼に誘われるまま家に向かい、若き母親(秋吉久美子)とも再会してつかの間の幸せな時間を過ごす。だが、実際の英雄は日に日にやつれていき、友人の間宮(永島敏行)や同じマンションに住む女性、桂(名取裕子)は心配する。
「浅草演芸ホール」のシーンでは、桂米丸師匠(当時62歳)の高座まで記録されている。英雄と連れ立って歩くところでは、「浅草ビューホテル」を背にした父親が、1983年に取り壊された「浅草国際劇場」の跡地に開業したのだと話す。本作のタイムトラベル感は尋常ではない。
感動のシーンの舞台は「今半別館」。おいしいものを食べようと、父、母と3人で、きちんと着替えて今半へ向かう。1921(大正10)年に今半本店からのれん分けした「今半別館」は永井荷風もよく通ったという老舗。
浅草出身である原作者、山田太一さんもよく通われたのではでないか。うまいものを食べ、文化を愛する。浅草に生きるということを、具体的に映像で見せてくれた作品だ。