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安定の秘書職から紆余曲折…ヒット作連発の女性監督 独自視線作った個性的すぎる経歴
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一貫して“成就した恋”が描かれない大九監督作品 自身の恋愛観は?
しかし、監督業はそこで終わらなかった。次に監督したのは8年後の『恋するマドリ』(2007)。だが「まさか職業映画監督になるとは思っていなかった」と大九監督は笑う。
「『意外と死なない』の上映(東京都渋谷区の「ユーロスペース」)が連日満員で楽しく終わり、その後は年に一度仲間で集まって自主映画を撮っていました。そこで知り合った方からちょこちょこお仕事をいただき、ちょっとしたPVを撮ったり、シナリオを書いたり、作詞してみたり。気付くと何となくものを作る仕事を始めていました。
そんなある日、映画美学校時代のプロデューサー、松田広子さんから『書いてほしい商業映画のシナリオがある』と声をかけていただきました。それを書いたら『監督もやらない?』となった。それが『恋するマドリ』です」
『意外と死なない』では、痛みに敏感すぎる女性教員とストーカー化した元恋人のシュールな関係。『恋するマドリ』では、引っ越しを機に夢と恋を意識し、自分をさらけ出しながら成長する美大生ユイ(新垣結衣)を描いた。
それ以後も新作「失恋めし」を含め、大九監督の作品では一貫して“成就した恋”は描かれない。“恋愛”は映画の物語を動かす装置ではあるだろうが、大九監督自身は失恋および恋愛をどうとらえているのだろう?
「安達祐実さんとの仕事(2020年のテレビ東京系ドラマ『捨ててよ、安達さん。』)で、私自身がこれまで生きてきて、漠然と感じていたことを現場で急にセリフとして足したことがあります。『恋より楽しいことってなかなかないよね』というセリフです。恋をするとドーパミンが出るからか、こんなに楽しいことは他にないと思う。だからそれを失うと世界が終わるくらいの痛みを感じる。若い時は特に。年とともに命取りになるので、あまり考え込まないよう、下手をこかないようにしようとする自分の恋愛観が、作品にも反映されていると思います(笑)」