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なぜ今『ウエスト・サイド・ストーリー』なのか? 90歳の米大物俳優が再登板した理由
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マリアとトニーが歌った「サムウェア/Somewhere」をモレノが歌う理由
人間の尊厳に対する身体的攻撃は見ていてつらいもの。それを演じるのはさらにつらい。しかし民族、ジェンダー、暴力が持つさまざまな問題、人の心という不安定なものを一気に表現して見せるため、本作には必要なシーン。だからこそ、現代なりの方法を取り入れて臨んだ。そしてモレノは同じ経験をしたものとして言葉少なにデボーズを支えた。彼女の演じる新しいアニータに“未来の歌”を歌わせるために。
一方、1961年度版ではマリアとトニーが歌った「サムウェア/Somewhere」を、『ウエスト・サイド・ストーリー』ではバレンティーナが歌う。
切羽詰まった気持ちで「どこかに私たちのための場所がある」と歌うマリアとトニーとは異なり、バレンティーナの歌は祈りのように聴こえる。未来を作っていく彼らのために、「新しい生き方や許す方法をどこかで見つけられるように」と。モレノのアカペラによる「サムウェア/Somewhere」には、ぜひ注目してほしい。
『ウエスト・サイド・ストーリー』再映画化で掴みかねていた意図は、作品を観ることで氷解した。古典が語り継がれ、再構築されることで、時代の経過によって変化したものが際立ち、抱えるテーマが浮き彫りになる。スピルバーグ監督は古典が持つその力を信じたからだ。製作総指揮も務めたリタ・モレノは、この作品に参加するにあたり、その辺りも意識したのだと思う。
『ウエスト・サイド・ストーリー』 大ヒット公開中 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (c) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。