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仕事・人生

肌の弱い娘の仕草からひらめいた 専業主婦がスキンケアブランドを立ち上げるまで

公開日:  /  更新日:

著者:中野 裕子

就職氷河期世代 会社勤めは未経験 常識にとらわれない「当たって砕けろ」精神

 実は、就職氷河期世代のヒロさんは就職が思うようにいかず、会社勤めをした経験さえなかった。短大卒業後、大好きな祖母の家に身を寄せ祖母の身の回りの世話をしたり、知人に誘われて南米ペルーへ渡り、現地の天野博物館(現・天野プレコロンビアン織物博物館)で案内係をしたりしていた。

 ペルーから帰国後も正社員として働くことなく、30歳のとき、幼なじみの信二さんと結婚し家庭に入った。キャリアらしいキャリアがなかったヒロさんだが、起業ストーリーのスタートは、常識にとらわれず、まずは行動を起こしてみるという、これまでの経験が活きていた。そして、「当たって砕けろ」の精神から始まったのだった。

 そんなヒロさんの無謀ともいえるメールに、返事をくれた会社が1社だけあった。その会社が、許可のない、いち主婦にキュウリエキスは売れないが、コスメ商品を作りたい個人を相手にしているOEM(他社ブランドで販売される製品を製造する)メーカーに当たってみてはどうか、と教えてくれた。

「この人、何もわかってなくてかわいそうだな、と思ったんじゃないですか(笑)」とヒロさんは当時を振り返るが、教えられたとおり、コスメのOEMメーカーを調べ、電話やメールをした。そのなかの1社が「面白いですね」と興味を示してくれた。

 その会社が後に正式に契約を交わす取引先となるのだが、当時は遠方にある、そのメーカーと契約も金銭のやりとりもないまま、ただメールや電話でやりとりをしていた。そして、原料に何を使うか、その配合も工夫し、約1年かけて思い通りのリップを作りあげることに成功した。

「もともとオーガニックコスメが好きでいろいろ使っていたので、原料については多少知識がありました。こだわったのは、なるべくたくさんキュウリエキスを入れること、ミツロウのニオイをとること、そして、アストロカリウムムルムル種子脂を使うこと。これは“保湿の王様”といわれるシアバターより保湿効果が高いとされているので、絶対に使いたいと思っていました。原価はシアバターより高くなってしまうんですけどね」

 長女や自身の肌で試作品を使ってみるうちに、肌の調子がどんどん良くなっていった。キュウリエキスには、美白効果や毛穴引き締め効果があることもわかってきた。知れば知るほどキュウリエキスの魅力にはまり、約1年後の2018年12月に完成した頃には、ヒロさんは長女や自分だけではなく、たくさんの人に使ってもらいたい、商品にしたい、と思うようになっていた。

 とはいえ、商品化となるとハードルは高い。肌の弱い人のためにより良いものを提供したい、という思いが強かったとしても、なぜできたのか。

「もともと、いろいろ考えることが大好きなんです。高校時代には、ある鍵を発明し、家族に代理で特許を取ってもらったことがあって、結婚後も『○○で特許をとりたい』とか『カフェをやるから』とかって、よく家族や友人に言っていたんです。チャレンジ精神旺盛というか(笑)。でも、結婚後は言うだけで何も実現しなくて、家族や友人には“オオカミ少年”“嘘つきハッチ”なんて言われて、相手にされなくなっていました。このままじゃいけない、そろそろ本気で取り組んで、ちゃんとカタチにしなければ、と焦る気持ちが正直、募っていました」

 そんな思いが、ヒロさんの生来のチャレンジ精神に火を付けたのだった。