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声も出ず電話もかけられず… 熱中症で自宅から搬送された一人暮らしの女性が語る 「本当に怖かったこと」

公開日:  /  更新日:

著者:中野 裕子

身体が動かず……(写真はイメージ)【写真:写真AC】
身体が動かず……(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「ヤバイ」と思った時には手遅れ ついに電話番号を押すことさえも不可能に

 水分、水分……。キッチンに行こうとするも、もう身体はほとんど動きません。頭の中はぼんやりしてきて、身体は眠ったような感覚です。“高齢者が熱中症で睡眠中に亡くなった”という報道を目にした時、正直どういう意味なのか分かりませんでしたが、こういうことか、と思いました。「ヤバイ」と思った時には、身体はほとんど動かなくなっていて、電話で119番を押すことさえ困難なのです。

 ちょうどその時「ピンポーン」と宅配の人がやってきました。「あ、出なくちゃ」と思うのですが動けません。声を出すのも困難で「ちょっと待ってくださーい」と声を張るなんてとてもできない。宅配の人はさっき電話があっての今なので、“家にいるはずだ”と粘ってくれたようでした。何度もインターホンを鳴らしてくれました。

 どれぐらいの時間が経過していたかはわかりません。インターホンは鳴らなくなりましたが「まだいてくれるかも」という思いで、気力を振り絞って身体を動かし、座った姿勢で階段をずり落ちるようにして降りていきました。宅配の人はよく待っていてくれたと思います。

偶然頼んだ再配達に救われた 宅配便の人が応急処置と119番通報

 階下に着き玄関のドアを開けたものの、立ち上がることさえできず靴箱に寄りかかり座り込んでいる私。宅配の人はさぞ驚いたことかと思います。

「どうされました? 大丈夫ですか?」

「……熱中症と……思います」

 これだけようやく言いました。宅配の人は家に上がり冷蔵庫を開け、氷を持ってきて私の身体を冷やし、すぐに救急車を呼んでくれました。救急車が到着した時は「助かった」とホッとしました。

 ところが、救急車がなかなか出発してくれません。鍵がどこにあるか分からないからです。家族にも連絡を取ろうとしてくれるのですが、私は一人暮らし。「家族はいない」の言葉が出てきません。

 救急隊員の方が、何度も私の血圧を測り直していたことを覚えています。元々私は低血圧なので、まともな数字が出なかったのかもしれません。私は目も開けられず、声も出せず、ほとんど意識を失う寸前だったのだと思うのです。

衰弱して声が出ない 病院に運ばれて脳梗塞などの疑いも

 時間をかけて「カ……ギ……は……」と一語一語発し、離れて暮らす家族の電話番号を「0……3……」と必死で告げると、家族が後で駆け付けることで話が付いたのか、ようやく近くの大病院へ。声を出せないので「熱中症だと思う」と説明することができず、医者や看護師は脳梗塞などを疑いCTを撮ったりしてくれました。

 結果的に熱中症だと診断し、点滴を打ってくれました。そうしたら……嘘のように楽になっていきました。数時間後、点滴が終わりタクシーで自宅へ。楽になったとはいえ、すぐに体調が戻るということではありません。めまいでひっくり返りそうになりながらも、何とか踏みとどまって帰宅しました。

 翌日はずっと横になっていました。また同じ状態になったらどうしよう、眠ったまま起きられなくなったらどうしよう、という不安でいっぱいでした。でも、かなり深く、コンコンと眠りました。

 それだけ体力を消耗した、ということでしょう。今振り返っても、たった数時間の図書館での時間が、しかも室内にいたのに、それほど身体にダメージを与えたとは……。熱中症の恐ろしさを知りました。